第597話 力関係

「シャア!」


「こはっ!」


俺は腹に良い一撃を貰って転がって行った。しかし、それは霹靂神の準備を始めてまだ1分と経っていない。


(毒を警戒し過ぎた)


俺を殴ったのはヒュドラ魔族だ。毒は耐性の無いので、食らうとそれでゲームオーバーになる危険性があるが、それに警戒し過ぎた結果の一撃だ。

ちなみに、魔族の元の魔物はリュウから聞いているから大体わかる。


「死…シィエーー!!」


(…絶対死ねって言おうとしただろ)


俺は叫びながらやって来たリヴァイアサン魔族に心の中でそう思った。もしかすると、挑発して「死ね」、「殺す」などの発言をさせてイムに殺させるのが1番楽かもしれない。


「よっ…」


俺は地面を蹴ってリヴァイアサン魔族の頭上を通り過ぎた。


(技や起点力は弱いけど、それを補って余りあるステータスか…)


もし、ベクアならリヴァイアサン魔族と同じように走って向かってきたとしても俺に頭上を抜かれることは絶対に無い。飛んだ瞬間に急発進して足を掴んだり、宙にいる俺に攻撃するだろう。

それがリヴァイアサン魔族などのここに居る魔族には無いが、俺が頭上を通り過ぎたと分かった瞬間に急ブレーキをし、再び俺に向かってきた。その動きは俺やベクアでも無理だろう。


(とはいえ、同じことを何度もさせてくれるほど頭が悪くもない)


きっと同じように頭上を通り過ぎようとすると、何らかの方法で攻撃してくるだろう。


「はっ!」


俺は突進に合わせて剣を叩き付けてわざと吹っ飛ばされた。時間稼ぎという点でこの方法はかなり優秀だ。だが、そろそろ読まれるだろうな。


「ドラドラ!」


「ふっ…!」


吹っ飛ばされた先に龍魔族が向かってきて、拳の連打を行ってきた。俺はそれをできる限り受け流していた。


「シュ!」


「ちっ…!」


しかし、龍魔族の横に来たリヴァイアサン魔族により、俺は一旦空中に撤退してから距離を取った。


(あれ…?ベヒモス魔族はどこだ?)


俺は再度地面に着地してからベヒモス魔族が居ないことに気が付いた。


「っ!」


魔力高速感知で真下に反応があると気が付き、横に飛び退くのに数瞬遅れて危機高速感知が反応した。


「ガアッ!」


「危なっ!」


地面からベヒモス魔族が飛び出してきた。魔力高速感知をしなかったら、いくら危機高速感知があるとはいえ、足を掴まれていただろう。


(これで何となく力関係は分かったぞ)


ここまで戦ってそれぞれのもつ能力、ステータスはわかった。

戦闘能力が高い順だと、龍魔族、ベヒモス魔族、ヒュドラ魔族、リヴァイアサン魔族だ。ヒュドラの方がリヴァイアサンよりもランクは低いが、陸地ということもあり、リヴァイアサン魔族は本領を発揮できていないのだろう。ここが海だと考えたら一気に龍魔族を超えてリヴァイアサン魔族が1位になるだろう。

そして、1番重要の警戒度が高い順だと、ヒュドラ魔族、ベヒモス魔族、龍魔族、リヴァイアサン魔族だ。やはり、ヒュドラの毒は何よりも警戒しなければならない。


(だが、ヒュドラ魔族の弱点も分かった)


何てことを考えていると、ヒュドラ魔族が向かって来た。俺はそれから逃げるようにリヴァイアサン魔族の方に向かって行った。リヴァイアサン魔族に近付くにつれ、ヒュドラ魔族の足は遅くなり、最終的に止まった。


(やっぱり、ヒュドラ魔族は他の魔族が居ると積極的にやってこない)


もちろん、近付いたら攻撃してくるだろうが、自分からはやって来ない。その理由は毒だろう。この毒は同じ魔族にも効果があるのだろう。だから俺と1対1の時にしか使えない。ヒュドラ魔族は集団戦に向いていないのだ。


(ベヒモス魔族も見失わないように気をつけておけばいいだけだ)


ベヒモス魔族の地中からの奇襲に捕まったらそれこそ魔族達からリンチにあい、大ダメージだろう。しかし、地中にいてくれる間は魔族が1人居なくなるようなものだ。地中にいるベヒモス魔族を魔力高速感知で見失いさえしなければ、寧ろ地中にいてほしいくらいだ。


俺の戦い方はそれから変化した。主にリヴァイアサン魔族の近くに居て、龍魔族や地中のベヒモス魔族が近付いたらヒュドラ魔族の方に逃げる。そうすると、他の魔族は追って来れない。そして、ヒュドラ魔族の射程に入る前に誰も居ない方に逃げてまたリヴァイアサン魔族に近付く。


ただ、何もさせてもらえない魔族達も業を煮やし、何かをし始めそうになってきた。だが、魔族が何か新たな行動を起こす前に霹靂神が完成した。


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