第594話 助言
「着いた」
俺は目的の場所に一直線に向かった。まだ日も暮れていないので空いているはずだ。
「お祈りをしたいです」
「では、像の前にどうぞ」
お布施を渡し、俺は中に入っていった。日暮れ前ということなのか、あまり中に人は多くなかった。
(どうせ見ていたんだろ?早く呼んでくれ)
俺が来たのは教会だった。今回の騒動についての助言を神に求めたかったのだ。
『ごめんね。今ちょっと立て込んでいるから呼ぶことはできない』
しかし、俺は呼ばれることなく、頭の中にあの神の声が聞こえてきた。今までこんなことは無かったので、普通にびっくりして目を開けそうになった。
『ただ、助言をするとしたら、イムと呼ばれている魔族と戦う前に必ず強い魔物か魔族を1体倒してレベルMAXにならないといけない。そして、進化をして。進化すると思えば自動で進化先を選択して、一瞬ふらつくだけで気絶して動けないなんてことは無いように調整しておいたから』
(え?へ?)
突然の一方的な声に驚いていると、神は言いたい事は言い切ったのか、それ以上は話して来なかった。
「レベルを上げないといけないのか」
俺はボソッとそう呟きながら教会を出た。今のレベルが99なので、イムの取り巻きの魔族を誰でもいいから1人倒せばレベルMAXになるだろう。しかし、それをイムや他の魔族が居る中で殺れと言うのは難易度が高い。
「でも、それをしないといけないってことだよな」
あの神が余程の馬鹿でない限りは自分が無茶を言っているという自覚はあるだろう。つまり、無茶を言ってまでしないといけないということだ。
「今のままだとイムに勝てないってことか?」
1レベル上がるだけなら大幅に強くなることは無いが、進化なら大幅に強くなるかもしれない。そこまでの強化をしないとイムには勝てないのだろうか?それとも他の魔族達に勝てないのだろうか?
「あ、天使化聞いてないじゃん」
天使化の詳細を全く聞けなかった。今からでも戻って聞こうかと思ったが、呼べないほど忙しいなら行っても意味が無いだろう。俺を呼んではいけないところに呼んだせいで忙しいというのは分かるが、今は一体何に忙しいのだろうか?
「ただいま」
「お帰りなさいませ。皆さんは出ていきましたよ」
「そっか」
ソフィ達は助力を求めて行動を開始したようだ。何気にこの屋敷でソフィらが誰も居なく、1人で過ごすのは初めてかもしれない。
「静かだな」
俺の部屋は静かだった。そりゃ、俺以外誰も居ないから静かなのは当たり前だ。しかし、食事や寝る時以外は常に集まっていたから静けさが少しおかしく感じてしまう。
「よし、寝るか」
俺は1人寂しく夜職を食べ、明日からの食事はいらないとメイドに伝えた。そして、明日の朝は早いのでもう眠ることにした。
「じゃあ…行ってきます」
そして、夜明け前に俺は1人そう言って、隠密を使ってほとんど人のいないまだ薄暗い街を歩き出した。
「まだ門は閉まってるよな」
予想通り、こんな夜遅くでは門は閉じ切っていた。しかし、夜勤であろう見張りはいるので、ダーキの足場を使って飛び越えた。深林に入る時のようにユグの転移でもいいのだが、念の為魔力は温存しておいた。
「さて、待つか」
王都から少し離れたところまで移動し、ここでイムを待つことにした。俺の視界を見れるのだからこの場所を把握して迎えに来ることくらいはできるだろう。
「やっぱり、ダーリンは来てくれると思ったよ」
「…イムか」
待つこと数分でイムは俺の前に転移でやって来た。
「反対されなかった?」
「視界を見てたらわかるんじゃないの?」
イムは俺がソフィに地面に叩き付けられたことを見ていただろう。今更だが、あの動きは俺がやろうとしてもなかなかできないぞ?もしかすると、ソフィは近接戦も強いのかもしれない。
「そうだね。僕の大事なダーリンの初めての1つも奪われたね」
「……」
イムはあの口付けのことを言っているのだろう。あれは不可抗力ということにしておいて欲しい。あれについてもことが終わったら話さないとな。
「まあ、僕はそんなに心が狭くないから別にいいけど。それじゃあ、行こっか」
「…ああ」
そして、俺はイムに連れられて転移した。
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