第593話 怒り
「さあ、ダーリンどうする?」
「どうもしません。ここで殺せば全て終わりです」
ソフィは本気でイムを殺す気のようでかなりの魔力を注ぎ込んだ火の玉を作り出した。
「ここでもし僕を殺したとしても、こんな街中で戦ったら犠牲が0にはならないよ?」
「それでも魔王たるあなたを殺せば英雄となるでしょう」
確かにこんなところでソフィが本気で魔法を放ったら辺り一面火の海だ。止めようとソフィを見たが、目が完全にキレている。止め方に注意しないと本気で魔法を放ちかねない。
「殺せればね」
イムはそう言ってソフィの魔法を伸ばした腕で覆うと、飲み込んで消した。
「でも、もし僕を殺せたとしても、僕という抑えを失った魔族達は大暴れするよ。仮に君達が全員殺せると仮定してもどっかの国は滅ぶよ。どの種族の国かは分からないけどね」
ソフィはそれを聞いて冷静になるどころか、さらに高威力の魔法を作り始めた。
「言いたいことは言ったし、このままここに居たら攻撃されそうだから一旦引くよ。明日の夜明けと同時に王都の外に迎えに来るからね。来なかったら魔族と魔物を使って同時に攻撃するからよろしく」
「死ね」
ソフィはイムにマジで魔法を放ったが、その魔法は転移で消えたイムには当たらなかった。
「ソフィ!」
俺は慌ててその魔法を斬り消した。魔法の範囲はイムを確実に殺すためか安全のためか縮小されていたので誰も怪我しないだろうが、俺の部屋の屋根は消し飛んでいた。
「お兄ちゃん、まさかイムの元に行くとは言いませんよね?」
ソフィがハイライトの消した目で見つめながらそう言ってきた。その答えにはみんな気になるようで、俺の方を向いていた。
「行こうと思ってる」
「何を考えているんですか!」
ソフィは俺の答えに納得いっていないのか、俺の胸ぐらを掴んできた。
「この期に及んでまだ話が通じる相手だと思ってるんですか!」
「いや」
俺はそう言って軽く顔を横に振った。
「なら、お兄ちゃんが行けば約束通りどこにも攻撃しない優しい心を持っているとでも思ってるんですか!」
「いや」
これにも俺は顔を横に振った。
「お兄ちゃんは…自分が無事で居られると思ってるんですか?」
「いや」
俺がそう言って首を振った時、ソフィに足をかけられて床に叩き付けられ、ソフィは俺の上に乗る。
「じゃあ!お兄ちゃんは何のために犠牲になろうとしてるんですか!」
「犠牲か…」
イムがまともな考えをしていないのは今日ではっきりわかった。俺がイムの元に行っても将来的には無事では済まないと思う。用済みになったら殺されるかもしれない。だけど俺が犠牲になればみんなが強くなる時間だけは稼げるかもしれない。
「これは犠牲になるつもりは無い」
しかし、俺は犠牲になるつもりは無い。俺はまだ死にたくない。
「ソフィ達が協力すれば人国、エルフの里、獣人国、ドワーフ、魔人から手を借りれるんじゃない?」
「確かに借りれるかもしれませんが…それが何だって…まさか、お兄ちゃんはその時間稼ぎをするつもりですか!」
「ああ」
ソフィ達が魔族と戦い、協力してくれた者達に魔物の相手をしてもらう。こうすれば勝てなくもないと思う。
「どんなに早くてもそれまで3日以上はかかりますよ!」
「それくらいは稼ぐよ」
俺をわざわざ連れ出すのだからイムもすぐに殺そうとはしないはず。しないよな?だったら1週間くらいまでは稼いでみせる。
「なら私もお兄ちゃんと共に時間を…」
「それはダメだ」
俺はソフィの発言を遮るように止めた。
「俺の居場所を分かるのはソフィしか居ないだろ?それにソフィは転移を使えるから協力を求めるのに必要な存在だよ」
「それは…そうですが…」
勘で言ったが、本当にソフィは俺の居場所が分かるようだ。
「私はお兄ちゃんだけが危険になるそんな作戦は認められません」
「でも、これが最善ということはソフィも分かってるはずだ」
「……」
俺が殺されず、犠牲を最小限にできる方法の中で最もどちらの可能性が高く最善なのはこれだろう。ソフィもそれは分かってはいるだろう。
「ソフィは納得してくれなかったら、途中で俺の元に来て作戦がめちゃくちゃになるから納得してほしい。この作戦の要はソフィだから」
イムが俺をどこに連れて行くか分からない以上、俺の居場所が分かるソフィが居なければそもそもこの作戦は成り立たない。
「みんなはこれに賛成してくれるか?」
俺の問いにソフィ以外の者は不服な顔をしながらではあるが、頷いてくれた。
「……もし、お兄ちゃんのHPが20%を切ったら作戦を無視してお兄ちゃんだけを助けに行って逃げますから」
「せめて10%にしてくれないかな?」
まさか、俺のHP残量までわかるとは思わなかった。だからちょっとびっくりだ。
「それから…」
「んむっ…!」
ソフィは俺の上に乗りながら俺の腕を肘で押え、顔を手で押えて動けないようにしてから俺の唇にソフィの唇を合わせてきた。
「ちょっ…舌はまだダメ!」
そのまま舌を入れようとしてきたため、慌ててソフィを押し返してそれは阻止した。
「今度私も残して死んだら絶対に許さないから」
「ああ」
ソフィは俺の耳元でそう言うと、俺の上から退いた。
「まず、エルフの里から行きます。お兄ちゃんのためなら女王達なら動くでしょう」
そして、ソフィはみんなに指示を出して協力を貰えるようにし始めた。
「さて…」
俺は邪魔になりそうだし、行きたい場所があるので、屋敷から出た。
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