第591話 リュウの回想 4

「ゴミ掃除をしてきたぞ」


「逃げたのは知ってたけど、掃除してきてくれたんだね。ありがとー」


謎魔族に気を取られて気が付かなかったが、謎魔族は魔族の頭を数個持っていた。


「っ!」


その中に私が来た時にデュラが逃がした魔族の頭もあった。どうやら、私とデュラが決死で行った時間稼ぎも無意味だったようだ。


「それで、あれを半殺し、あっちは殺すでいいんだよな?」


「あ、やってくれるの?」


イムとの会話を終えた謎魔族が私達の方を向いた。


「デュラ!逃げるぞ!」


その瞬間に私はデュラに指令を出した。あれには逆立ちしても敵わない。逃げるしかないのだ。


「かはっ…」


しかし、デュラからの返答は指令に了承するものでも否定するものでもなく、口から漏れた息だった。


「デュ…デュラ!」


デュラの腹に謎魔族の腕が貫通していた。元となった魔物がデュラハンというアンデッドであったため、腹に穴が空こうが生きることはできるが、実体があるので治すまでさっきまでのようには戦えないだろう。


「これで死なんか」


「退け」


まだ死んでいないデュラにトドメを刺そうともう1本の腕を振り上げたのを見て私は謎魔族の方に向かった。

謎魔族は向かってくる私に横目で一瞥すると、私がやってきたタイミングでデュラを殺すために振り上げた腕を私に振り下ろしてきた。


「しっ…」


私はその腕を自分の左腕が砕ける音を聞きながら何とか受け流した。これには謎魔族も少し目を見開いて驚いていた。謎魔族の攻撃を受け流すなんてもう一度やれと言われてもできないが、今はそれでいい。


「はあっ!」


片腕はデュラの中、もう片腕は振り下ろした隙だらけの謎魔族に全力で右腕で殴りかかった。


「えっ…?」


しかし、その拳は謎魔族に当たることは無かった。目の前から謎魔族がデュラから手を抜いて消えたのだ。


「ん?」


そして、私は違和感に気付いた。左右のバランスが上手く取れない。また、攻撃したはずの右腕の感覚が無いのだ。その時、私は自分の右腕があった場所を見てやっと気がついた。


「あ゛あ゛あ゛!!!!」


私の叫びながら肩を押えて後方に目をやった。すると、後方に居た謎魔族は私の右腕を持っていた。


「今の動きはそこにいるカス共には無理な動きだったな。どうやら、お前は俺様の女になる資格があるようだ」


謎魔族は私の右腕から垂れる血を舐めながらそう言った。


「俺様がイムに言ってお前は生かしてくれるようにお願いしてやるぞ」


「…私にはもう心に決めた男が居るから無理よ」


私はイムを一瞬見てから謎魔族にそう返した。


「それはどこのどいつだ?そいつを殺して俺様の方が生物として優秀なことを分からせてやる」


「それはゼロスよ。そこのイムがダーリンと呼ぶ者のことよ」


「…」


もちろん、私の言っていたことは嘘だ。しかし、イムを敬った様子のない謎魔族ならゼロスを上手く使えば仲違いできるかと考えた。現にイムは凄く不機嫌そうにしている。


「ならそいつを殺…」


「ムート」


謎魔族の発言を止めるようにイムが謎魔族の名を読んだ。


「それを口にしたり、行動にしたら僕はお前を殺すぞ?お前は僕と敵対するってことでいいんだな?」


「…」


どうやら、私の作戦は失敗だったようだ。イムが激怒すると、謎魔族はイムに忠誠をアピールするかのように片膝をついて頭を下げていた。


「デュラっ…」


しかし、片膝をつけたことで、謎魔族に今までで1番の隙が生まれた。その隙を狙ってか、デュラが私を持ち上げて走り出した。


「逃がすか」


「こっ…!」


デュラの穴の空いた腹に私の腕を投げ刺してきた。元々穴が空いているのもあってか、デュラは穴を空けられた時よりもダメージは少なそうだ。デュラはその腕を抜くと、私の体の上に置いた。私はその腕を掴んでデュラの腕から逃れて自分で走り出した。


「どこに行く?」


デュラにそう尋ねられたが、私に選択肢はなかった。


「ゼロスの元だ」


こいつらに対抗できる可能性がある者がゼロスら以外に思い付かない。私はゼロスの視界を元にデュラを案内してゼロスの元に向かった。




「ちっ…仕留め損なったか」


「リュウちゃんは殺しちゃダメよ。ちゃんと伝えてもらわないと困るから」


「俺の攻撃力なら殺してしまうかもしれない。お前ら行け」


「「「「はっ!」」」」





私達は4人の魔族に追われながら逃げた。その時に私もデュラは何度も攻撃された。後は真っ直ぐ進むだけで王都に着くというところで背中に龍魔族の魔法が直撃し、意識を失った。


そして、次に目が覚めるとそこはベッドの上だった。

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