第590話 リュウの回想 3

「はあっ!」


「グッ…」


私の拳がベヒモス魔族の腹に入り、くの字で吹っ飛んで行った。


「ドラッ!」


「うっ…!」


しかし、攻撃の時にできた隙をつかれて龍魔族に殴られた。


「はあ…はあ…」


今の私は全力で戦っていると言っていい。この前ゼロスと獣人国の大会で戦った時よりも本気だ。


「ブオッ!」


「っ…」


吹っ飛んで行ったベヒモス魔族が戻ってきた。そうなのだ。全力で戦っているのに手応えが無いのだ。これ程魔族との戦闘では元の魔物のランクが勝敗を分けるとは思っていなかった。しかし、この気持ちはデュラを含む他の魔族は感じたことがあるだろう。これは私よりもランクの高い魔族居ないことに甘んじていた私の落ち度だ。


「がっ…!」


私の視界の端で首が長く、蛇の頭のついた腕と尻尾のあるヒュドラ魔族にデュラが蹴り飛ばされていた。私が龍魔族からのダメージ覚悟でベヒモス魔族を攻撃した理由はデュラのことである。私だけなら今の2人を相手に時間稼ぎくらいはできるが、デュラは1人相手でもかなりキツそうだ。私も3人を相手にするのは無理だろう。だから1人を倒して早くデュラと共に残った2人を相手にしたいのだ。



「あのさ…僕はさっきまでと同じように遊び殺してって言ってないよ?」


イムが発言した瞬間に目の前の2人の魔族が動揺するのが見えた。2人の反応からしてデュラの前にいる魔族も同じ反応なのだろう。


「僕はリュウちゃんを痛め付けろ、もう1匹は殺せって言ったよね?僕はいつまでこんなつまらない戦いを見ないといけないの?飽きてきたから早く終わらせて欲しいんだけど。こんなことならもう1人も呼んだ方が良かったかな?」


「「……」」


目の前の魔族達は悔しいのか歯を食いしばりながら固まっている。


「それともあれに頼んだ方がいいかな?」


「「「っ!!」」」


目の前の魔族が魔力を纏い直して慌てて向かってきた。もうデュラの方にいるもう1人の目の前の2人と同じようなことをしている。今の言い方だとまだあと2人も魔族が居るのか?


「でも、リュウちゃんを相手に2人だと殺さないように手加減するのは大変そうだし、もう1人の呼ぼっと」


イムが何か言うと、もう1人の魔族がイムの横から現れた。


「この子はリヴァイアサンの魔族だよ。そこのリュウちゃんを殺さないように痛め付けろ」


「分かりました」


イムがそう言うと、私と対して背格好が変わらないヒレのついた耳と尻尾を付けているリヴァイアサン魔族が私達の中に加わってきた。


「つっ!」


リヴァイアサン魔族の水のレーザーが当たった。体に穴が空くことは無かったが、浅くない傷ができた。どうやら、ベヒモス魔族が前衛、龍魔族が中衛、新手のリヴァイアサン魔族が後衛のようだ。バランスが良くなったことで私はさらにきつくなった。しかし、逃げた魔族のためにも私はここで時間を稼がなければならない。



「うーん…。思ってたよりもリュウちゃんが強いな。準備が整ったんだから早くダーリンに会いたいんだけど…。これは本当に呼ぶべきだったかな?」


イムがボソボソ何か言っているが、本気で気にしている余裕が無い。今の私は攻撃を諦めての防戦一方のためギリギリ戦えている。それは相手は胴などに隙ができても殺さない手加減した攻撃をしてくるからであるが。とはいえ、油断していたらすぐに一斉攻撃で意識は失われるだろう。



「その必要は無い」


「あっ!ムー君!」


「………ん?」


ほぼ無心で防御をしていたせいか、急に攻撃が止まったことに気が付かなかった。目の前の3人が震えているが、どうしたのだろうか。そう思ってイムに目を向けると、イムの横に新手が立っていた。


「な、何だそれは…」


私はその魔族を見て言葉を失った。いや、そもそもあれは魔族なのか?私には魔族を超越した別の生命体としか思えない。その理由は何の魔物の元の魔族かさっぱり分からなかったのと、得体の知れない恐さがあるからだ。イムがわざわざ他の魔族と別で特別に扱ったのも理解できる。


「凄いでしょ?これが僕の最高傑作!」


私の考えを読んでか、イムがそんなことを言ってきた。この魔族の背格好は龍魔族と同じだが、1番の特徴は肩の少ししたから生えている大きな翼だろう。他の全身も概ね龍と似ている。だが、龍よりも引き締まっている代わりに筋肉質であろう。しかし、龍のような頭にはベヒモス魔族と似た角が2本左右に生えている。さらに、後頭部から首まで鋭いエラのようなものが付いている。

ちょうど目の前にいる3人の魔族の特徴と似ている気がする。


(まさか!?)


私はぎょっとした様子でイムの方を見ると、イムはにたーっ!と笑った。

イムは龍とベヒモスとリヴァイアサンを掛け合わせて魔族を作ったのか!しかもキメラみたいにただくっ付けたのではなく、ちゃんと掛け合わせている。作ったのが魔物が先か魔族が先かは知らないが、とんでもないことをしてくれた。

ベースとなっているのはSSS+ランクの龍なのだろうが、それにSSSランクのベヒモスとリヴァイアサンが邪魔をすることなく綺麗に掛け合わさったのだ。もうランクという概念を突破している。そんな魔物でも恐ろしく強いだろうに、その魔族となったらどれくらいの強さかなんて計り知れない。


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