第588話 リュウの回想 1
「…特に争った形跡もない」
私は魔族の住処から少し離れた深林を捜索していた。その理由は最近行方不明になる魔族が多いから。元々、魔族は戦闘好きみたいなところがあり、度々無理して戦うことで減ってはいた。しかし、これまで複数人で行ってそのグループが1人残らず帰って来ないことが続くことは流石に無い。
本来、魔王という称号を持つとおり、魔族の中のトップである私が住処を離れるのは良くないことだろう。だが、今回の事件は何か嫌な予感がする。デュラを住処において来ているので大抵のことなら大丈夫だろう。幸い、ゼロス達も深林から出るような動きをしているので、ここに来ることはない。
「住処から離れる理由は無いな」
何人も続けて居なくなる理由で戦い以外の理由で考えれる次はこれだ。だが、不満があったらすぐ口にするいい意味でも悪い意味でも素直な魔族が複数人で急に黙って何処かに住処を変えるとは思えない。
「争った形跡を残さず、魔族を殺している者がいるのか?」
そうなってくると、考えられるのはそれくらいだろう。しかし、口に出してすぐにそれは無いと思った。ここが深林とはいえ、魔族を相手に無抵抗に複数人を殺すのは無理だ。それは私やイムやあのゼロスであってもだ。
「ならここから遠くに移動させてから殺す。これ無理だな」
基本的に頭の弱い魔族とはいえ、そんな遠くまで移動させられたら流石におかしいと疑うはずだ。だから転移させるなどの手段を用いない限りそれも無理なはずだ。
「ん?」
しかし、逆に言えば転移させればそれが可能ということだ。身内にその条件を満たせるような奴を知っている。頭の中に嫌な考えが浮かび始めたその時だった。
ドンッ!!!
「何だ!」
突然何かが爆発するような轟音が聞こえてきた。そして、音の鳴った場所は魔族の住処の方角だった。
「間に合え!」
私は全力で飛んで向かった。その甲斐あってある程度距離があったが、10分過ぎで住処に着いた。
「こ、これは…!」
私達の住処はもう火の海だった。ついさっきまでここに誰かが住んでいたとすら思えないほど家もボロボロになっていた。
「デュラ!デュラは居るか!」
私は火の海となっている住処に入り、デュラを懸命に探した。
「逃げろ」
「あんがとな!」
「デュラ!」
そんな時、崩れた家を吹き飛ばし、下敷きなっていた魔族を逃がしているデュラを見つけた。
「デュラ、何があった!」
私はデュラに詰め寄って尋ねた。今は何よりも状況を早く把握したい。
「我にも分からない。突然何かに攻撃され、住処はこんなに荒れ果てた。その現況を探して殺そうとする者が多くいたが、すぐに断末魔を聞いて何か嫌な予感がしてそこまで攻撃的では無い者達を何人かさっきのように逃がした」
「それでいい。良くやった」
ここにいたデュラでも何があったかは分からないそう。しかし、断末魔が聞こえたということは既に挑みに行った何人かは殺されているということか。
「あ、リュウちゃん。帰ってきたんだ!早かったね」
「おい、リュウ…お前の下にあるのはなんだ?」
私が声のした方に向くとイムが人型の者が何人か重なって山になった何かに座っていた。
「これ?魔族の死体」
「っ!」
私はそれを聞いてイムに向かって行った。しかし、イムの辿り着く前に腕を掴まれた。
「これも遊び殺していいのか?」
「ううん。これは痛め付けるだけ。餌にしたいからね」
見たことの無い魔族が急に現れたことにも驚いたが、それ以上に驚いたのがこの魔族の強さだ。仮にも私は魔力を纏っただけだが、全力でイムに向かって行っていた。それなのに、私を簡単に片手で止めたのだ。
「あ、紹介するよ。みんな遊びながらでもいいから来てー!」
イムがそう言うと、新手の魔族が追加で魔族の2人が魔族であったであろう何かを引き摺りながらやってきた。
「紹介するよ。これが龍の魔族で、あれがベヒモスの魔族で、それがヒュドラの魔族。もう1人似たようなのが居るけどここには来てないよ」
「なっ!」
イムが言った魔物のランクは、龍がSSS+、ベヒモスがSSS、ヒュドラがSSS-ランクだ。つまり、ここにはSSSランク帯の魔物の魔族が3人も居るということだ。
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