第587話 目覚める

「結局今日も起きなかったか」


リュウをデュラから託された日を1日目とするならば、今日はもう3日目の夜である。もうリュウは2日以上も眠り続けていることになる。


「エリクサーが駄目だったってことは無いよね?」


「エリクサーで駄目なら元から私達に救うこと自体が無理ですよ」


確かにエリクサーを使わなければ切断された腕も治せなかったし、全身の傷を回復させてあげれたかと言うと無理に近い。


「腕が繋がり、傷が治った時点で魔族にエリクサーが害があるものとは考えにくいです」


まあ、ソフィの言う通り、エリクサーで傷が治っているのだから毒という訳では無いだろう。


「起きてこない理由としては蓄積されたダメージや疲労が残っているのが考えられますね」


「それはありそうだな」


リュウが普段どこにいるのか知らないが、住んでいる場所は深林だろう。もし、深林からここまで逃げてきたのだとすればそれはかなり距離となるだろう。その道中をリュウが走っていたとしたらここまで起きないのも納得だ。



「まあ、無理して起こすのはできないし、起きてくれるのを待つしかないな」


「そうですね」


ソフィは俺の発言に同意しながら席を立った。


「では、今日は私も部屋に戻りますね」


「ああ、おやすみ」


「おやすみなさい」


そう挨拶をして俺の部屋に1人残っていたソフィは自分の部屋に戻って行った。

ちなみに、ソフィは昨日、自分の部屋に戻らなかった。その理由は何日もソファで寝続けるのは良くないと、俺をソフィの部屋のベッドで寝かせたからだ。その時にソフィはリュウの見張りを兼ねて俺の部屋のソファで寝ていた。これはリュウが起きた時点で時間に関係なくすぐに俺を起こすという条件の元で合意した。


結局次の日にもリュウは起きなかったが、その翌日の5日目の夕方にその時はやって来た。



「うっ…!」


「ん?」


今まで死んでいるのか心配なるほど静かに眠っていたリュウがうなされ始めた。心配になって顔色を見ようと近付いた。


「っ!」


顔を覗いた瞬間にリュウの目はかっ!と開いた。そして、布団を跳ね除けるように上半身を起こした。


「………」


起きてすぐは混乱している様子で辺りを見渡していた。そして、すぐ横の俺に目線が固定された。


「はっ…!」


そして、リュウは近くに居る俺だけに聞こえるような声でそう言って再び目を見開いた。それと同時に俺の胸ぐらを両手で掴んできた。リュウにしては大雑把な掴み方だったので俺の反射神経を持ってすれば避けようと思えば避けれたが、あえて掴ませた。


「おい!ここはどこだ!あいつはどうなった!デュラはどこだ!!」


リュウは俺に顔を引き寄せ、鼻同士が触れそうな距離で怒りを隠すことなく、血走った目で俺にそう言ってきた。


「まずは落ち着いてください。そうしないと話すことも話せません」


そんなリュウの傍にソフィは雷の槍を10本近く転移させた。リュウは顔は動かさず、目線だけでその魔法を見ると、すっと俺の胸ぐらを離した。


「すまなかった。冷静じゃなかった」


そして、リュウはベッドに座り直すと、そう言って俺に頭を軽く下げた。それを見たソフィは魔法を解除した。


「全然問題ないよ。そんなことよりも先に状況を確認したい。俺達の知っていることをまず話すよ」


「頼む」


俺は気配を感じて王都の外に行くと、傷だらけのデュラとリュウが居て、デュラにリュウを託されたことを離した。


「そうか…デュラは逝ったか」


全てを聞き終えると、リュウは静かにそう言って俯いた。


「デュラの亡骸はあるか?」


「ああ」


俺はデュラの胴体と頭をマジックリングから取り出した。


「…こんな傷だらけになっても私を守ってくれたのか」


リュウはデュラの背の傷跡を左手で優しく撫でながらそう言った。撫でながら体が震えているので泣いているのかと思ったが、右手から血が滴っているのを見てそうでは無いと分かった。リュウは歯を食いしばりながら自分の爪が肌を貫通するくらいぎゅっと力強く拳を握っているから震えていたのだ。


「ありがとう」


「うん」


リュウはもういいのか、デュラから手を離して俺の方を見て礼を言った。俺はデュラを再びマジックリングに戻した。


「それで何があったんですか?」


デュラをしまったタイミングでソフィがリュウにそう尋ねた。


「イムが私を…いや!魔族を裏切った!」


「ひっ!」


思わずキャリナが小さく悲鳴を上げるほど殺意を込めてリュウはそう言うと、リュウ達を見つけた前日に起きたことを話し出した。

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