第586話 デュラの頼み

「リュウとデュラ!?」


俺が驚きで固まって居ると、ソフィ達が続々と俺の後ろに到着し出した。到着すると必ずリュウとデュラが居ることに驚き、次にその2人の怪我に驚いている。


「かひゅ…」


「デュラ!」


「お兄ちゃん!そんな無警戒に近寄らないでください!」


デュラが空気が抜けるような声を出しながら前のめりで倒れた。倒れて首につけていた頭が転がるが、膝と右肘を地面について、リュウを地面に落とさないようにしていた。俺はソフィの声を無視して俺の近くに転がってきた頭の近くによってしゃがんだ。



「…俺はもう限界だ。リュウを頼む…」


デュラがそう言うと、腹の穴から青白いモヤの塊のような何かが天に向かって飛んで行った。


「…デュラは死んだか」


その様子を見たら誰でも死んだと分かるだろう。しかし、死んでもリュウを地面に落とさないように強く抱き抱えているのを見て、俺はデュラを尊敬した。


「任せろ」


俺は頭の近くで一言そう言うと、デュラの胴体の元へ行った。


「お兄ちゃん!」


ソフィが再度忠告してくるが、無視してデュラの胴体のところで膝をついた。そして、大事そうに抱えているリュウを俺の元に抱き寄せた。絶対に落とさないようにしていたはずのリュウだったが、その時は俺にリュウを差し出しているかのように全く力をかけずに抱き抱えることができた。


「魔族もエリクサー効くよね?」


俺はそう言いながらマジックリングからエリクサーを取り出した。


「お兄ちゃん!冷静になってください!今ならリュウを殺すまたとないチャンスです!今すぐに殺しましょう」


リュウに飲ませようとエリクサーを持つ手がソフィに掴まれて止められた。


「ソフィこそ冷静になって。デュラはその危険を顧みずに俺達の元にきた。つまり、リュウやデュラの力を持ってしても敵わない敵が居たってことだ。それは本来敵であるはずの俺達の力を求めるほどの脅威なんだ。そんな敵の情報はもうリュウにしか聞けない。そして、そんな強い者が相手ならリュウの力は絶対に役に立つ」


「それは…」


俺の言葉でソフィは俺の腕を掴んでいる力が緩くなった。その手を振り払ってエリクサーを与えようとしたが、もう一度ソフィの手に力が入った。


「シャナなら何かデュラの心を読んで知っているはずです!」


ソフィのその声を聞いてみんながシャナの方を向いた。注目されたシャナすぐに話す。


「デュラにはゼロがここに来てくれた安堵とリュウが助かる喜びしか考えてなかった。だからこれが罠である可能性は絶対にないと思う。何があったか聞くためにもリュウは助けるべき」


「ソフィ、時間が無い。もういいか?」


シャナの言葉を聞いて俺がそう言うと、ソフィは俺の腕から手を離した。こんな話をしている間にもリュウの命は刻一刻と死に近付いている。俺はすぐに切れた腕を傷口に押さつけながらエリクサーをかけた。


「…良かったエリクサーは効くようだな」


エリクサーは魔族のリュウにも効果を発揮して、傷は全て治った。俺は未だ気を失っているリュウをお姫様抱っこの状態を維持しながらデュラの頭の元でしゃがんで頭をマジックリングに入れた。そして、デュラの胴体も同じようにマジックリングに入れようとしたが、手が止まった。


「みんなちょっと来てくれ」


俺がそう言うと、全員が俺の元に近寄ってきた。そして、俺と同じ光景を見て息を飲んだ。


「…逃げる敵にこんな傷をわざと付けたのか!」


リュウに気を取られていて気が付かなかったが、デュラの背中には大小様々な傷がついていた。それは魔法であったり、引っかき傷であったり、斬り傷であったり、傷の種類は色々だ。だが、腹の穴以外はどれもわざと殺さないように手加減した浅過ぎず深過ぎない傷となっているように見える。

俺はベクアのように叫ばなかったが、ベクアと同じかそれ以上に憤りを感じていた。別に敵であろうデュラやリュウを殺すなとは言わない。ただ、こんなわざと痛め付けるような殺し方は絶対にダメだ。


「…よくこの傷でここまで来れたわね」


確かにデュラの傷は今さっきまで生きていたことを疑うレベルの量だ。魔族という種族を考慮しても許容できる傷の量では無い。リュウを助けるという気力だけでここまで来ていたのだろうな。


「ここで敵に遭遇しても厄介だ。屋敷に帰ろう」


俺がそう言うと、全員が同意して屋敷に帰った。屋敷に帰ると、俺の部屋のベッドにリュウを寝かせて俺は同じ部屋のソファに寝転んで夜を明かした。

リュウを他の部屋に寝かせろとソフィに言われたが、起きた時にすぐに気が付けるようにという理由で断った。だったら他の人の部屋にしろと言われたが、リビングみたいな扱いになっている俺の部屋が適任だと言うと今度は黙った。リビング扱いが助かる時が来るとは思っていなかった。


しかし、その夜は警戒してずっと起きていたが、デュラとリュウの追手は来なかった。敵をデュラとリュウが撒いていたのか、それともここに逃げたと知って無視しているのか分からないが、まだ警戒していた方がいいだろうな。

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