魔族編

第585話 序章

「冒険者カードを見せてください」


「はい」


俺達はリンガリア王国の門番に身分証明のために冒険者カードを見せた。


「っ!こ、これは!英雄様でしたか!誠に申し訳ありませんでした!貴族門からお入りしていただければ並んで待たなくでもよろしかったのに…。あっ!そんなことより、ど、どうぞ!お楽しみください!」


「ありがとう」


俺達のSランクの冒険者カードを見せると、門番は慌てた様子でそう言った。最後のお楽しみくださいってのはどういうことなんだろうか?

それにしても、冒険者カードにランクだけで俺達の名前や個人情報は特に書いてないと思うのだが、よくベヒモスの時の俺達と分かったな。


「私達くらい若いSランクの冒険者なんてほとんど存在しないでしょう。そんな者が3人集まって、他にもエルフや獣人が居るのですから丸わかりですよ」


「あ、確かにそうか」


それだけの情報があれば俺達が誰かくらい知っている者なら分かるだろう。

ちなみに、貴族門から王都に入らなかったのは特に理由は無い。貴族だって自覚がないからつい普通に並んでしまうのだ。まあ、貴族門に徒歩で入る人なんてほとんど居ないから隠密を使っていても門番が騒いだら目立ってしまうから面倒というのはあるけどな。下手に貴族らに伝わって呼ばれても嫌だしな。



「それで今日はどうしますか?」


ソフィがそう聞いてきたが、俺達が王都に着いた時にはもう昼過ぎだった。これから何か行動するには少し遅い時間帯だな。


「今日はゆっくりして、明日教会行って、冒険者ギルド行こうか」


「はい」


王都にやってきた理由は生存報告をするためだ。1年は深林に居続けて誰とも連絡を取っていないのでそろそろ生存しているか心配している者がいるだろうからな。

そして、俺にとって重要なのは教会に行くことだ。俺のレベルはついに99レベルになった。特訓をしている分レベル上げは遅れてしまったが、特訓は俺にも役に立っている。おかげで雷の使い方の幅が広がった。俺はレベルMAXになった時の進化先の話を神にしたくて王都にやって来たのだ。ついでに天使化についても聞きたい。



「それよりも腹減ったぜ!飯を食おうぜ」


「そうだな」


俺達は買い食いをしながら屋敷に向かった。そして、屋敷に着いてそれぞれ親族に手紙を書いて出した。そんなことをしているともう日が暮れた。教会と冒険者ギルドは明日にして良かった。



「相変わらず、集まるのは俺の部屋なんだな…」


そして、今は食後のぼーっとする時間だが、なぜだかみんな俺の部屋に居る。俺の部屋は別にリビングじゃないんだけどな…。


「っ!?」


わちゃわちゃ騒ぐベクア達を見ていたら、突然何かを感じた。これは敵意に近い気はするが、殺気は出ていないと思う。何となく前にも似たようなもの感じたことがある気がする。


「お兄ちゃん、どうかしましたか?」


急に顔色を変えて立ち上がった俺にソフィが少し心配そうにそう聞いてきた。声をかけてきたのはソフィだが、みんな騒ぐのをやめて俺の方をじっと見ている。


「ソフィの全力の魔力感知範囲はどのくらいだ?」


「王都一帯とその外の周辺くらいはできます」


俺の突拍子のない急な質問にソフィはそう即答した。


「今すぐ魔力をしてくれ」


「分かりました」


またしても急なお願いにソフィは当たり前のように了承した。そして、目を閉じて魔力感知に集中した。ちなみに、俺は全力で行っても王都一帯すら無理だ。


「っ!」


「何が居た?」


突然、ソフィは驚いたように目を見開いた。その反応で何か合ったのはバレバレだ。


「…リュウとデュラが王都の外に居ました」


「……」


ソフィがある方向を向いてそう言った。これにはみんなが無言になった。それは俺達が帰ってきたタイミングでわざわざ王都に来たのが狙っているとしか考えられないからというのもあるだろう。だが、それよりも何をしに来たかの方が気になる。

それと、謎の既視感の正体はその2人のどちらから放たれたものだったからか。


「…問題なのはリュウの魔力がほとんど尽きていることで…お兄ちゃん!」


俺は引き止めるソフィの声を無視して窓から飛び出してソフィが向いた方向に神雷トリプルエンチャントをして走り出した。何か嫌な予感がする。



「…これは」


そして、俺でも感知できる範囲にやって来た。それで分かったのはソフィの言う通りリュウの魔力がほとんどないことだ。



「…待っていた」


「デュラと…リュウ!?」


そして、外壁を飛び越えて2人の元にやって来た俺は目を疑った。まず目に入って来たのは全身ボロボロで胴には腕が通り抜けるほどの大きな穴が空いてリュウを抱き抱えているデュラだった。

そして、次に目に入ったのは全身傷だらけの血まみれで切断された右腕が自分の腹の上に乗って今にも死にそうなリュウだった。

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