第584話 反省会
「何が悪かったか言ってよ」
シャーニは舞台から降りて治療をしてもらうと、俺の元にいの一番にやってきてそう言った。
「まず、迫ってくるアディに焦って矢を放つのを急いだことだな。そんな雑な矢だとある程度近距離だとしても側近達には当たりもしないし、牽制にすらならない」
一番最初にシャーニのミスしたところはここだろう。突然急降下してきたアディに驚くのは分かるが、だからこそもっと冷静に行動するべきだった。
「その次はアディから逃げようとした時だな。そもそもその判断も少し遅い。引くならすぐ引く、引かないなら引かないと最初からある程度決めておくべきだ。逃げる時に判断の不安さから周りを見たのもダメだ」
「…それは自分でも反省してるよ。そもそも弓で舞台内のどこにでも攻撃できるのに周囲を把握してないのは問題だから」
ここはシャーニ自身もダメだったと分かっているようだ。
「そして、最後がナイフを咄嗟に腕でガードしたことだな。別にガード自体は問題ないけど、弓から片手を離してガードしたのが問題だ。武器である武器からは手は離したらいけない。もちろん、離しても問題なく攻撃できるなら別だけど」
「なるほど…」
シャーニが頷きながら納得している。両手を使う弓から手を離すと、もう武器は使わないと宣言しているようなものだ。
俺もわざと武器を手放す時はある。だが、その時はすぐに武器を回収できるか、剣無しで攻撃できる時だ。
「参考になったわ」
「なら良かった」
俺は生意気に上から悪かったポイントを言ったが、俺がそれらを全部守れているかと言われたら無理だと言うだろう。傍から見て口で言うのはできるが、自分で言ったことを全部完璧にやれと言われたら難しい。現に最近もシャナに武器を戦闘中に奪われたしな。
「それが全部できてたら私は勝てたと思う?」
「それは…」
俺はそこまで言ってよく考えた。今日のような一方的な戦いにはならないだろうが、勝てたかと言うと微妙…と言うよりも無理だと思ってしまった。
「顔を見て言いたいことはわかったけど、私も勝てないと思う」
「えっと…」
負けたせいでかなりネガティブになってしまった。なんて励ましたらいいんだと考えていると、シャーニはくすくすと軽く笑った。
「そんなに心配しなくても私は大丈夫よ。そもそも能力の練度も戦闘自体の練度も違っていた。状況判断、雷の武器の切り替え速度、雷の纏う量の増加、弓の熟練度の増加…これから成長できる課題が山ほど見つかっただけよ。」
シャーニは少し嬉しそうにそう言った。
「こう言うのは癪だけど、あんたに教わってから自分の能力の可能性が広がったのを感じた。そして、自分がまだまだ強くなれるってことも知った。それが何よりも嬉しい。日々強くなることを実感するのがこんなに楽しいなんて知らなかった。だから感謝してるよ」
「…そっか」
素直に言ってくれるのは嬉しいが、少し照れてしまった。
「だから!まだまだ強くなるために協力してもらうから!そのために狩りにも付き合ってもらうし、特訓にも付き合ってもらうから!」
「分かったよ」
俺もシャーニが成長している姿を見るのは好きだし、狩りと特訓に付き合うのは構わない。
「それに私がご一緒しても文句は言いませんよね?」
「うわっ!」
俺の肩の上にヌルッとソフィの顔が出てきてシャーニにそう言った。俺でも近付いてくるソフィに気付いたのがほぼ真後ろに来た時だったので、シャーニはソフィが近付いていることに気が付いていなかった。だから今も飛び退くぐらい驚いて声を上げた。
「…もちろんよ。でも、私に助言はもらうよ?」
「それぐらいは構わないですよ。ただ、そんなことをしたらずっと話していないといけないですね」
「ソフィ…」
確かにソフィが粗探しして文句を言うなら常に言い続けることができそうだ。ただ、それをやられたら俺もソフィに言い続けられると思う。
「…良いわよ。ずっと言えるもんなら言ってなさいよ!」
「そうします」
実際、次の日に狩りに行った時はアディとの戦いについてや、狩りの戦闘方法の文句をずっと言い続けていた。最初は言い返したシャーニだが、小さいことも含めて全部的を射てはいたので、逆に言い返されていた。さすがに言い過ぎたと思って俺が1時間も経たずにソフィを止めたけど、止めなければ何時間も本気で言い続けるつもりだったようだ。
そんな調子で狩りや特訓を繰り返していると、1年弱が経過した。
〜〜〜〜〜〜
次話から最終章です!(今の予定では……)
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