シャーニの閑話

第582話 下克上

「下克上始め!」


側近のその掛け声により、シャーニと幹部との下克上という名の試合が始まった。


「「悪魔化、悪魔憑き」」


2人は同時に悪魔化と悪魔憑きを行った。魔人同士の戦いはその2つをすることから始まる。


「……」


シャーニは雷を腕と足に纏わせて、雷の弓を構えて止まっている。相手は何もせずに普通の直剣を構えている。何の能力かはまだ分からない。

最初に動いたのはシャーニだ。シャーニは矢を幹部に向かって放った。その矢を幹部は直剣で弾いた。そして、シャーニに向かって走って行った。


「さすがに正面からは防がれるのか」


いくら放つ矢の速度が速いと言えど、真正面から真っ直ぐ放たれたら幹部クラスなら防ぐようだ。


「ふっ!」


何てことを考えている間に近寄っていた幹部はシャーニに直剣を横薙ぎに振った。その直剣をシャーニは少し余裕を持って容易に避けた。雷を纏っているだけあって速度はシャーニの方が速かった。しかし、まだ能力が分からない悪魔を憑かせている相手にはもっと大袈裟に避けるべきだった。


「なっ!うぐっ…」


幹部の直剣は急に5倍近くも大きくなった。シャーニは当たる直前で再び間合いに入った巨大剣を雷を纏った腕でガードした。


「しっ!」


シャーニは吹っ飛んで転がりながら矢を放った。しかし、その矢は地面に突き刺した巨大剣によって防がれた。

その後も展開も大きさが変わる剣の対処に苦労しながら苦し紛れに矢を放っているだけで、シャーニだけがダメージを重ねていく。



「もう勝負は決まったようなものですね」


その様子を見てソフィはそう言った。俺もそれに同意するように頷いておいた。


「しっ!」


「ふんっ!」


シャーニが転がりながら放った矢を再び幹部は巨大剣を地面に突き刺して防ごうとした。しかし、矢は途中で二股に別れ、さらに巨大剣を避けるように曲がった。


「ぐわあっ!」


そして、別れて曲がった矢は幹部の両方の二の腕に突き刺さった。痛みに悶えながらも幹部は慌てて巨大剣に手を伸ばした。しかし、それを遮るように矢を放った瞬間から走り出していたシャーニが目の前で弓を構えた。


「参った…」


両腕に穴が空いて武器を手放し、顔の目の前で弓を構えられたらさすがにもう幹部も勝ち目が無いと悟ったようだ。


「下克上成功!順位変更!新幹部10位シャーニ!」


シャーニは勝ったことで新しく幹部入りすることができた。


「相手がシャーニに先手を取ってから調子に乗って大きくなった矢にも気付かず、同じ方法の防御しかしない時点で終わりですね」


ソフィの言う通り、シャーニと戦っていた元幹部はシャーニが苦戦している風を装っていたのを見て調子に乗っていた。自分の攻撃が対して効いていないのにも気付かなかったらしい。また、シャーニが今まで真っ直ぐ矢を放つだけで勝ててたのも良かったな。


「本当に苦労するのはここからだろうな」


「そうですね」


次からの下克上ではシャーニのことを油断してくれる相手はほとんど居ないだろう。また、曲がる矢も増える矢も見せてしまっているので厳しい戦いになるだろうな。


「まあ、それは置いておいて…」


しかし、そんなことを考えるよりも、今はすることがあるだろう。


「シャーニ、幹部入りおめでとう!」


「あんたの教えが良かったのもあって勝てたよ」


実際、油断させる作戦は俺が考えたものだ。しかし、具体的に能力が分からない以上具体的なことは言えず、どう油断させるかを決めて行動したのはシャーニだ。


「次回からも色々手助けしなさい!」


「ああ、分かったよ」


シャーニはそれだけ言って俺から離れていった。


「これがツンデレってやつか?」


俺は初めてツンデレに出会った気がする。エリーラもツンデレっぽいが、デレることがほとんどないのでツンツンって感じだ。


「ツンデレが好みですか?私もツンデレになりますか?」


「いや…ソフィはそのままでいいから」


無表情でそう聞いてきたソフィにそう言って俺はそっと離れた。ソフィに下手なことを言うと本気でツンデレになりそうで怖いから余計なことを言う前に居なくなった方がいいだろう。

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