第580話 帰還

「よしっ!これで悪魔界でのやるべき事も終わったな。後は帰るだけだ」


バトルロイヤルが終わった日の夜は戦った悪魔達のどんちゃん騒ぎがあったので帰る機会を逃して日が明けてしまった。だが、もうやることは無いので帰ってもいいだろう。


「ん。勧誘も終わった」


昨日の夜に帰れなかったもう1つの理由がそれだ。シャナは夜通し有能そうな悪魔の勧誘をしていた。その甲斐あって、炎悪魔を始め、かなり役立ちそうな能力の悪魔を勧誘できたらしい。そのため、最初に三魔の他に居た悪魔は御役御免になったそうだ。


「でも使いこなすためには時間がいっぱい必要」


「大変なのはこれからってことか」


悪魔の能力は特殊なものが多いので、全てを完璧に使いこなすのにはそれなりに時間が必要だろう。その点、ブロスは攻撃するだけだから楽でいいな。


「それじゃあ、帰るか」


「そうですね」


「ん」


俺達は屋敷の前で転がっている悪魔達を放置して、悪魔界から帰った。



「おっとっと…」


突然変わった足場に少し体勢を崩したが、問題なく帰ることができた。辺りを見渡しても行く時と同じ祠のある村の離れのような場所だ。


「服はそのままか」


「あちらからの持ち出しは自由のようですよ」


同じく帰ってきたソフィからの返答があった。持ち出しがいいようなので、俺の剣の素材もこうやってこっちに持ち出されたものなのだろう。ただ、剣になるような鉱石は見当たらなかったが、悪魔界でも珍しいものなのかもしれない。


「お」


なんてことを考えていると、地面に黒い魔法陣が現れた。そして、それが薄く光ると、シャナが現れた。


「無事に帰れたみたいだな」


「ん」


どうやら、シャナも無事に帰れたようだ。


「じゃあ、村の方に行くか」


俺達は村の方へと歩いた。



「あ、そういえばシャナは人が契約してる悪魔を奪えたりするの?」


シャナの称号の効果なら契約済みの悪魔をそそのかして自分の戦力にする事ができそうに感じてしまう。


「もう契約済みの悪魔には効果が発揮されない」


「あ、そうなんだ」


それなら良かった。これが可能だったらかなり面倒なことになっていた。だって、シャナがその気なら能力的には俺やソフィの悪魔は奪われてしまっていたからな。


「それが分かるということは私かお兄ちゃんで実際に試しましたね?」


「……」


「え、まじ?」


ソフィの方と逆方向を向いて無言のシャナに思わずツッコミを入れてしまった。試しただけで本気で奪うつもりはなかったと信じたい。



「あっ!悪魔王様!」


「いや、俺は悪魔王では無いんだけどな…」


村の前で見張り役をしていた魔族が俺達を見ると、そう言って村の中に走っていく。今はブロスも出していないんだけどな……。



「遅いから心配していたのじゃよ」


「生きてたんだな」


さっき村に入って行った悪魔がブリジアとドレリアを呼んできたようだ。


「普通にピンピンしてるから安心してくれ」


色々トラブルはあったが、特に大怪我した訳でも問題があった訳でも無い。


「なら良かったのじゃ」


一旦会話が終わったタイミングで少し気になることがあった。



「そういえば、ベクア達はどこにいるんだ?」


ベクア達がこの場ばかりか、周りにもいない気がする。基本的にベクアは行動がうるさいからどこかに居たらわかると思うんだけどな。


「そいつらなら4人で狩りに行ってるぜ」


「ゼロスなら心配せずともそのうち帰ってくるだろうから、それまでに強くなってやるって言ってたのじゃ」


「ベクアらしいな」


ベクアは俺の事を全く心配していなかったらしい。それはエリーラも同じで、キャリナだけは心配していたが、2人がそんな調子だから心配も3日後くらいには忘れていた様子だったそうだ。


「ん?4人?」


ベクア、キャリナ、エリーラと後もう1人は誰だろうか?


「もう1人はシャーニだぜ」


「シャーニか!」


シャーニならその3人に着いて行ったと聞いても納得だな。


「シャーニも今や隊長の中のトップになったのじゃからな」


「トップまでなったのか」


俺達が来た時はまだ平だったシャーニだが、今はもう隊長の中のトップらしい。俺達が悪魔界に行く前は隊長の2番手だったので、居ない間に戦って勝ったのだろう。

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