第576話 違うところ
「ちなみに、シャナはここで住んでたの?」
「ん。意外と住み心地はいいよ」
俺はシャナが居た屋敷の中に入った。ここは屋敷と言っっても壁にはところどころ穴が空いているし、床もボロボロだ。これならソフィが作ってくれた家の方が何倍も住み心地はいいだろう。まあ、それはソフィの空間魔法の中に入っている寝具とかもあるからだけどな。
「それにしても王よ。シャイナ様と比べると目移りするが、いい人間と契約したな。俺のバリアが正面から力技で割られることがあるとは思っていなかったぞ」
「それには同意だわ。私の眠り粉があそこまで効くのが遅いとは思わなかったわ」
三魔のうちの2人とブロスが集まってそんな会話をしている。ちなみに、ディアは屋敷の部屋の隅に居て、それに付き従うようにシファも共にいる。
しかし、やっぱりあの強いバリアは三魔の1人の能力だったのか。それと、俺が急に眠くなったのはあの蝶の羽の生えた悪魔の鱗粉だったそうだ。効くのが遅いと言っていたが、いつから俺にかけていたのだろうか?
「身内に厳しい王のことだから私達の能力なんて教えてなかったんでしょ?」
「当たり前だ。せっかく能力が知れぬ者と安全に戦える機会を逃す訳がなかろう」
「相変わらず身内へはスパルタだな」
そして、最後にバリア悪魔はコソッとブロスには聞こえない声でそんなことをしてたから妹に怖がれるんだって言っているのを俺は聞き逃さなかったぞ。
「それに比べて、俺の能力は役立つとか言いながら全く意味が無かったのはどこのどいつかな?」
「神経を操れれば1発だった!」
蝶悪魔が縦目悪魔に馬鹿にするようにそう言うと、すぐに縦目悪魔も反論した。
「それはそこまで小さいのは見えても操れないと言ったシャイナ様への侮辱か?」
「ふーん」
「あ!違っ!シャイナ様!違うんです!」
バリア悪魔の言葉にシャナが反応すると、縦目悪魔は先程と同じように慌てながらシャイナに土下座をした。
「確か骨の1、2本折ればそれであんな人間ごとき終わりだとか言ってなかったっけ?」
「ほんと?」
「言いました…」
どうやら俺の足の骨を折ったのは縦目の悪魔の能力と関係あるようだ。しかし、シャナの操作の力について言っていることから透視能力か?ただ、それだけだと弱いので他にも何かあるだろう。
でも、シャナの操作力が増したら一瞬で神経を切られるのか?恐ろしいな…。
「自覚があると思うけどはっきり言う。お前の能力は三魔の中で1番役に立っていない。ステータス強化以外でお前を使う理由は無い」
「そ、そんな…」
シャナの言葉に縦目悪魔改め、透視悪魔はがっくりと落ち込んだ。
(ブロス、あれはいいの?)
(何だ?)
俺は気になることがあったので、小さい声で周りには聞こえないようにブロスへ話しかける。
(結構酷い扱いをしてるみたいだけど…)
ブロスは前に勇者が悪魔の扱いが酷く激怒していた。今も少しそれに近い状況だと思う。
(前のあれと今では状況が全然違う。前のは無理やり従わされていた。だが、今回は悪魔側から好きに離れられる。つまりあれはあの扱いを受けてなお、好き好んで付き従っているのだ。悪魔の好かれるという称号も洗脳している訳では無いようだから問題は無い)
(…なるほど)
俺の中で透視悪魔はドMという懸念が生まれたが、問題ないようだったら良かった。
「これからは役に立つことを期待する」
「はっ!任せてください!」
俺がブロスと話している間にどうやら話が纏まったようだ。気が付いたら平和的に終わってるな。
「でも、その前に言うことがあるよね?」
「はい」
透視悪魔は頭を上げると俺とブロスの方に向かってきた。
「王。目が節穴だったのは俺だった。シャイナ様には劣るが、その人間は王が契約する価値があった。人間も悪かったな。俺は骨を数本折ったら痛みで動けなくなると考えていた。もし、次に戦うことがあったら数十本折るから許してくれ」
「分かれば良い」
「えっと…」
透視悪魔はブロスにはちゃんと謝っている。これは誰に聞いても分かるだろう。だが、俺は謝れたのか?俺へは遠回しな罵倒では無いか?
「次は折る隙を与えないようにするよ」
とりあえず、当たり障りの無いようにこう答えておいた。この返答は間違っていなかったようで透視悪魔は満足した様子で俺達の前から去っていった。
それからは悪魔達は屋敷で、俺達人間?はソフィの作ってくれた家で夜を明かした。そして、約束の次の日になった。
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