第572話 悪手

「それなら私が戦います」


「ソフィとは最近戦ったばかり。しかもその時に私は勝った」


シャナはソフィの発言を否定するようにそう話した。シャナの言っている戦いとはのは獣人国を出る直前の戦いのことだろう。シャナの言う通り、その戦いではソフィは負けていた。


「それにゼロは戦闘狂と戦う約束なんでしょ?私から話せばある程度ゼロの安全を確保して戦わせてあげるよ」


「……」


確かに今までの悪魔達の反応を見ると、シャナが言えばどの悪魔でも言うことを聞きそうだな。


「…分かりました」


ソフィはその後も色々考えていたようだが、俺とシャナが戦うのを許可した。まあ、許可されなくても指名された以上、ソフィを説得してでも俺が戦おうとは思っていた。

あ、ちなみに、ソフィは俺達の戦いの審判をやってくれる。

それにしてもシャナとちゃんと戦うのはいつぶりだろうか。多分操人になってすぐの時以来か?


「油断してると腕の1、2本斬るから」


「……」


シャナは悪魔の背から降りて俺の耳の傍でそう呟いて俺から距離を取った。今のシャナの発言は全く冗談には聞こえなかった。それに今のを言われた瞬間に悪寒が走った。これは本当に油断していると腕なんかのエリクサーで治るものなんかではなく、首を持っていかれるかもしれないとすら思った。


「ブロス、あの3人は例の3人なのか?」


「そうだ」


シャナの後ろに控えていた悪魔達はブロス前に言っていた特に強い戦闘狂の3人であったようだ。


「あの悪魔の能力は…」


「殺し合いなら遠慮なく教えるがな」


あの3人の悪魔をブロスは教えてくれなかった。ブロスの能力はバレているので不公平の気もするが仕方ないか。


「ブロス、よろしくな」


「分かっている」


ブロスに声をかけると、俺の中に入ってきた。言いたいことは伝わったようだ。



「では、両者準備はよろしいですか?」


「ああ」


「ん」


俺とシャナは5mほどの距離を取って向かい合っていた。林の中からは戦闘狂やその他の悪魔が俺達の戦いを見ている。


「えっと…シャナも準備はいいのですか?」


「ん」


ソフィは思わずシャナに再び聞いた。その理由はシャナの後ろに3人の悪魔が依然として控えるように立っている。また、その後ろには他の悪魔達が膝を着いている。


「…では、始め!」


「悪魔化、悪魔憑き、神雷ダブルエンチャント、雷電ダブルハーフエンチャント、神雷纏」


ソフィが仕方なくそのまま開始を宣言した。俺はすぐに全力の強化を行った。ただ、ユグとジールとダーキが居ないので、かなり戦力ダウンだ。


「悪魔使役」


俺の強化を終わるのを待っていたようなタイミングでシャナはそう唱えた。


「は…?」


すると、シャナから黒い蝙蝠のような羽頭と蝶のような触覚が生えた。そして、眼は縦に割れた。さらに、体の周りに黒いオーラを纏った。しかし、それらは問題ない。

問題なのはソフィの後ろで膝を着いていた者も含めて後ろにいた悪魔が全員消えたことだ。さすがに全員と契約したとかでは無いはずだ。何かカラクリがあるだろう。


「本気を出す気になった?」


「…神雷エンチャント」


とはいえ、普通よりも強いであろうことは確かなので、俺は雷電エンチャントの1つを神雷エンチャントに変更した。


「じゃあいく」


「こっ…!」


こい!と言おうとした瞬間に危機高速感知が反応した。俺は慌てて首元に剣を振ってシャナの鎌を弾いた。


「やっば!」


その時に本当のシャナの狙いに気がついて俺は高くジャンプした。その瞬間、俺の周りに鎌と共に現れていた鎖が俺の居た場所に巻き付くように絞られた。


「あ」


ここで俺は今の行動が悪手だと気が付いた。慌てて高く飛んだはいいが、今日はダーキが居ないのだ。だから空を蹴って移動することができない。それに、ユグやジールも居ないので適当な魔法で地上に降りることもできない。俺は完全に身動きを取れない空中に取り残されてしまった。


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