第563話 良い的

「これならあんたにも勝てる!」


「それは無理だな」


シャーニは今放った矢を見て、これなら俺に勝てると思ったようだが、それは無理だ。どんなにその矢に威力があっても雷で出来たという時点で俺には何のダメージにもならない。


「根本から相性最悪ね」


「さりげなく放つなよ」


シャーニは会話をしながら俺に再び矢を放ってきた。その矢は今度こそ剣で斬って吸収した。しかし、さっきも今回もこめかみに一直線で向かってきたな。コントロールがいいのはいいのだが、狙ってる場所の殺意が高い気がする。



「あ、弓術取得した」


「早っ!」


まだ2回しか射っていないのにもうスキルを取得するのは早過ぎる。これは元々弓の才能が高かったのだろう。


「…剣術を取得した時は4日もかかったのに、その時間は何だったんだって話しね」


「それも充分早いと思うけどな…」


俺が言えた義理じゃないが、普通はスキルを取得しようとしたら何ヶ月も特訓するもんだ。だから1週間で取得できるのは普通に早い。


「まあ、相手に近付かれたら剣での近接戦は必要になるかもしれないからな」


「それもそうね」


魔法が大得意のソフィですら稀に敵に近寄られる時があるのだから、弓を使い始めたシャーニにも近接戦になる場面はあるだろう。その時のための対策は必須だろう。その点、シャーニは元は近接戦をしていたのだからあまり心配しなくても大丈夫だろう。


「でもこれで俺が教えられることなくなったな」


シャーニはもう新しい悪魔の能力を思い付いたので、もう俺が教えることは無いだろう。


「え?あんたが弓の使い方を教えてくれるんじゃないの?」


「俺は弓は使えないよ」


俺は二刀流の剣一筋なので、他の武器はほとんど使えない。弓なんて遠距離武器ということで特に使っていないな。


「それなのに弓を勧めるって…」


「まあ、相性がいいんだからいいじゃん」


魔力で感知できない掠っただけでも痺れて動けなくする矢が遠くから高速で放たれると考えただけで普通は嫌だろう。シャーニが使いこなせるようになったら一気に側近まではいかなくても、幹部レベルの強さにはなれるだろう。



「もちろん、的として手伝ってくれるよね?」


「え?おっと…」


俺はどういう意味か聞き返そうとしたが、その前に飛んできた矢を剣で斬った。その後も矢を放ちながらシャーニは話を続けた。


「まず、あんたは雷が一切効かないから実戦を想定した動く的としたら最適なのはいい?」


「あーうん」


なんか微妙に納得したくない気がするが、確かにその通りだと思う。止まっている的だけを射っていても実戦で当てるのは難しいだろう。全く動かない敵の方が珍しいからな。


「で、あんたは反射神経に関しては右に出る者も居ないよね?」


「まあ、そうかな」


反射神経だけは誰にでも負けていないとは思う。


「そんなあんたに百発百中で矢を当てられるようになったら私は誰からも矢を避けられなくない?」


「暴論だ…」


暴論ではあるが、これも納得できてしまう。俺が警戒している中でも百発百中で当てられるようになったら大体の敵には矢を避けられないだろう。


「そういうわけで付き合ってよね」


「俺の用事がなかったらな」


別に俺にやることが特になかったら的になるのもやぶさかでは無い。的になるのも神速反射のスキルレベル上げに役立つからな。


「私以外にあんたに教えを乞う奴は居な…」


「まだ!居ないな!」


俺はシャーニの不吉な発言を遮った。今日はたまたま来ないだけで次回から来るかもしれない。

なんてことを考えていたが、明後日からも誰も来なかった。そのため、俺がドレリアやブリジアに個人的に教えて欲しいことを聞く時以外はシャーニの的になった。シャーニの上達は凄まじく、1ヶ月後には遠見というスキルまで取得し、ある程度動き回っていても動きを予測して50m先からでも俺をこめかみを狙えるようになった。

そして、そんな時ついに待っていたものがやってきた。



『ピコーン!』

『悪魔憑きがLv.MAXになりました。進化し、悪魔使いLv.1を取得しました』



「うしっ!」


やっと悪魔憑きが進化して悪魔使いを取得できた。まだ悪魔化はレベルMAXにはなっていないが、とりあえずシャナが悪魔と契約をできるようになった。

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