第556話 聞きたいこと
「それを渡してきたのはイムっていうリュウとは別の魔王だ」
「イム…」
魔族と敵対関係にある魔人からしたら、魔族の最高戦力である魔王がもう1人居るというのは悲報のようで聞いた皆が俯いている。
「そのイムというのは何の魔物の魔族か分かるか?」
ブリジアがそう聞いてきた。確かに何の魔物の魔族かによって力が変わるから気になるよな。
「イムはスライムの魔族だ」
「スライムじゃと!?」
俺の発言にブリジアと側近達は驚いていた。本来スライムとはランクすら与えられない最弱の魔物だ。まだステータスを与えられていない人間の子供でも倒せると言えば弱さがより分かるだろう。そんな魔物が元になった魔族が魔王となるとは思わないだろう。
「元がスライムだからってイムはリュウと遜色ないくらいには強い。現に俺やソフィは何度か戦っているけど、まだ倒したことがない。のらりくらりでいつも逃げられる」
イムが全力で戦っているのを見たことはあっただろうか?いつものほほんと適当に戦っているように見える。
「戦ったことがあるということはそのイムとゼロス達は敵じゃのか?」
「敵です。殺せる場面があったら既に殺してます」
ブリジアの質問にソフィは力強くそう答えた。イムと仲間という括りにされるのは我慢ならなかったらしい。
「そのイムはリュウほど魔族を統一とかはしてなく、自由に動き回っていると思う。だからこそ、何がしたいのかが全く理解できない」
リュウは基本的に同族である魔族のことを考えて行動しているように感じるが、イムは自分のためだけに行動しているように見える。
「つまり、イムがなぜここの地図を持っていたのか、なぜゼロス達をここの地図を渡したかは分からないということじゃな?」
「ここの地図を渡してここに来させるように仕組んだ目的は分かりました」
「え、そうなの?」
俺は分かっていないが、ソフィはイムが俺達をここに来させた理由が分かったそうだ。
「お兄ちゃんには魔王との戦闘時に呪いがかけられています。その呪いはお兄ちゃんの目線を魔王が共有できるというものです。イムはそれで魔人の王と側近の力を見たかったのだと思います。魔人の場所に来たら戦うことになるとイムは読んでいたのでしょう」
「…もう余達の悪魔の能力は暴かれたということか」
悪魔の能力はバレる前の方が厄介だ。何でもありな悪魔の能力は初見殺しにうってつけだ。その機会を俺が無くしてしまった。
「それがどうしましたか?元々それなりに魔族と戦っていますよね?もう既にバレていたと思いますよ」
「あ、確かにそうじゃな」
ブリジアや側近はかなりの回数魔族と戦っていたらしい。だからもう既に魔族の前で能力を何度も使っていたそうだ。
「それならなんでイムとやらはわざわざ確かめようとしたのじゃ?」
「魔族とイムは繋がっていないということでしょう」
魔族とイムが繋がっていないのなら、確かに魔族が知っていることもイムは知らないだろう。しかし、リュウはイムを仲間のように扱っていたのはどういう訳だろうか?
「難しい話はここで終わりじゃ!これからゼロスに1つだけ聞く!それを余の目を見て真剣に答えるのじゃ!」
ブリジアは大きな声でそう言って俺の目を見つめて続きを話し始めた。
「ゼロスらは余達の敵なのか?」
「敵じゃない」
俺はブリジアの目を見つめながらそう断言した。
「ならいいのじゃ!宴に水を差して悪かったのじゃ!皆の者よ!存分に騒ぐのじゃ!」
それからはただのどんちゃん騒ぎが行われた。途中で酒樽の上で行われた腕相撲大会はかなり盛り上がった。強化系スキルを無しでやった場合はベクアが1位で、2位がドレリアで、3位が俺だった。強化系スキルありだと1位がドレリアで、2位が俺で、3位がベクアだった。まさか、神雷クアドラプルエンチャントをしたのに負けるとは思わなかった。
「あー、楽しかった」
もう深夜から明け方になる直前だった。もう既にみんなは疲れたのか、酔ったのか分からないが寝ている。そんな中、俺は1人で村から出て森に少し入った。
「出て来いよ」
俺がそう言うと、俺の前にある者が転移してきた。
「僕が来るのわかってたの?相思相愛?」
「な訳あるか」
何となくイム来るような気がしたからみんなから離れただけだ。騒いで起こしたくないからな。だから決して相思相愛では無い。
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