第555話 宴中に

「皆の者、乾杯じゃー!」


「「「乾杯!!」」」


勝負が終わると、王が中心となって準備し、日が完全に暮れる前に宴が始まった。


「まさか王に勝つとはな…。我はゼロス様が勝つとは思っていませんでしたよ」


「あー…絶対に勝てないみたいなことを言ってたもんな」


宴が始まる前は俺、ソフィ、シャナ、エリーラ、ベクア、キャリナは固まっていたが、始まってすぐに魔人達がやってきた。チラッと横目で他の者を見ても沢山の魔人に囲まれて質問攻めにあっている。ソフィは特に囲まれているが、歯牙にもかけずに食事を楽しんでいる。ちなみに、人間国では15歳から酒が飲めることになっている。まあ、だから俺とソフィとシャナとキャリナはまだ飲めない。もう16歳のベクアと年齢不詳のエリーラは飲める。まあ、俺達の中で飲んでいるのはベクアだけのようだが。



「なんか…俺のところだけ魔人来なくない?」


他のみんなは囲まれている中、俺のところに来たのはモーゼンだけだ。だからって別に悲しくないからな…。


「当たり前ですよ。我もただゼロス様が暇にならないために少し話に来ただけで、もう本命様が来たようなので失礼しますよ」


「え?」


モーゼンがそう言って離れてすぐの事だった。


「ぐへっ!」


俺の後ろから誰かが肩を組むように首に腕を回して来た。俯瞰の目で確認するよりも前にその者は話し出した。


「余に勝った者がこんなところで何をしてるのじゃ!」


「あ、王か」


俺の後ろからやってきたのは王だった。王が来るのを知っていたから誰も来なかったのか。


「王ではなく、ブリジアと呼ぶのじゃ!それより行くぞ!」


「ど、どこに!?」


王改め、ブリジアは俺の言葉を無視して引きずるように歩いて行った。俺はその時慌てて目の前の果実水だけは掴んだ。


「ここに決まっておるじゃろ!」


俺が連れて来られた場所は側近達とブリジアが飲んでいる場所だった。そこには側近とブリジアの他にもう1席用意してあって、そこに座らされた。


「お?」


しかし、すぐ後にソフィとシャナが自分で椅子を持ってきてそこに座った。


「側近に勝った私達を場違いと言ったりしませんよね?」


「言うわけないのじゃ。そんなことを言ったらこの場に側近は居れなくなるのじゃ」


こうして、ブリジアと側近と俺とソフィとシャナでの食事?が始まった。


「それにしても、余が負けるとは思わなかったのじゃ。自慢じゃないが、余は今まで1度も負けたことがなかったのじゃぞ?」


「それは今まで強い者と戦わなかっただけです」


「まさにそういうことじゃ!」


ソフィの挑発めいた発言をブリジアは笑いながら流した。


「それで聞きたかったのじゃが、ここにはどうやってこれたのじゃ?なかなか普通に深林を探索してても辿り着かん場所だと思うのじゃが」


確かにここら辺は背の高い草に覆われているので、ここを目指していない限り、この広大な深林の中で辿り着くのは難しいだろう。


「まずはこれを見てほしい」


俺はそう言って机の上にイムから貰った地図を広げた。


「…これをどこで手にいたのじゃ?これほど精巧な地図は余らでも持っておらんぞ」


王はそう言いながら物珍しそうに地図を側近と共に眺めていた。


「…魔族の王、魔王から貰った」


俺がそう言った瞬間に、ドレリアは金棒を取り出して振ろうとした。しかし、ソフィがすぐに魔法を準備し、睨み合いの状態になった。


「ドレリア鎮まれ」


「だが姉者!」


ブリジアがドレリアを止めようとしていた中、俺はブリジアとドレリアは姉妹だったのか?と場違いのことを考えていた。


「…ここに魔王リュウからどんな命令を受けて来たかによってはゼロスを殺さねばならないぞ」


ブリジアは俺達の方を鋭く睨みながらそう言ってきた。俺達のただならぬ雰囲気に気付いてか、周りも少し静かになった。


「ここに魔人達を害するために来た訳では無いというのははっきり言っておく。それと、これを渡してきたのはリュウではなく、違う魔王だ」


「なっ!他にも魔王が居るのか!」


どうやら、イムという魔王のことを魔人達は知らないようだ。


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