第553話 混乱

「え…?」


俺の腹を王の刀が貫通している。しかし、痛みは全くない。こんな現象は生まれて初めてなので混乱で頭がいっぱいだ。だが、混乱していても危機高速感知が反応したことで体は反射的に動いた。


「うっ…!」


刀の峰が俺の顎を叩く勢いで高速で上に向かってきた。俺はそれをしゃがむことで回避した。この貫通している刀は俺がしゃがむと上にすーっと通り抜けて最後には俺の頭から離れた。


「あっ」


そして、俺はしゃがんだことが悪手だと気が付いた。


「うぐっ…」


俺の左側頭部に蹴りがとんできた。俺は左肘を上げることで何とかガードできたが、まともに食らったことで腕は痺れているし、吹っ飛んだ。


「ぐっ!」


俺は俯瞰の目で王の場所を確認しながら、素早く体勢を整えて王の方を向いて立ち上がった。その瞬間に王の姿は消えた。


「っ!」


消えたと思った王は俺のすぐ目の前に俺の身体に左腕を突き刺して現れた。俺は慌てて下がろうとしたが、下がれなかった。俯瞰の目で確認すると、突き刺した王の手が俺の背中を抑えていた。


「ちっ!」


こんな近寄っていれば俺すら剣を振れないのに、王の俺の剣よりも長い太刀は振れないだろう。そう思っていたのに、王は自分の身体をすり抜けさせて俺を斬りに来た。その時に王の刀を近くで見てやっと理解できた。


「離れろよ!」


俺は何も考えずにジールの精霊魔法で放電した。王は転移ですぐに逃げた。


「ハイヒール」


王は俺の背中に振れたことでズタズタになって焦げた左手を治していた。そりゃかユグ精霊化、神雷纏を行っている背中を抑えるようにそれなりの時間触れていればそうなるだろう。


「もう一体の悪魔の能力は透過ってところか。転移と透過のどっちが刀の中にいるのかな?」


「刀にいるのは透過じゃよ」


俺の質問に王は治した手を開いたり閉じたりしながら答えた。少し動きがぎこちないので、完全には治っていなさそうだ。


「その2人は随分相性がいいけど、狙って契約できるもんなの?」


「たまたまじゃよ」


転移と透過の相性はかなり良い。転移の弱点は重なるところに転移できないことだろう。しかし、透過ですり抜けることでどこにでも転移できる。


「でも、透過ができて何でさっきの雷は逃げたんだろうね?」


この質問に王は答えずにニヤッと笑った。全身を透過できるのなら俺の雷を透過でやり過ごしてから攻撃すればいいだろう。しかし、それをしなかった。つまり、あの時に何かしらの不都合が合ったのだ。


「魔法を斬れる相手ってこんなに厄介なんだな…」


それなら魔法で攻撃すれば勝てると言うほど単純では無い。下手な魔法なら簡単に斬られてしまう。


「無駄話はそのくらいにするのじゃ」


「もう少し話さない?」


正直、攻略法が見つからないからもう少し話しながら色々考えたい。


「終わってからいくらでも話をしてやるのじゃ!」


「あー!そうかい!」


王はそう言うと、俺に向かって走り出した。いつ転移するか警戒していたが、転移は行わず俺に近寄って斬りかかってきた。


「ふっ」


刀を剣で受け流そうとしたが、刀が俺の剣をすり抜けてきた。


「ろわっ!」


俺はすぐにもう1本の剣を顔の前に出すことでガードすることに成功した。しかし、防がれた瞬間に王は転移で移動した。


「くそ…」


相手が転移で場所を変えて攻撃を仕掛けてくる以上、どうしても後手に回ってしまう。


「雷龍!」


一旦転移をさせないために俺は自分の周りを覆うように雷龍を放った。


「避雷針」


その中で俺は即興で作った精霊魔法を使った。この魔法の影響で場内の地上、上空に限らず魚小骨程度の小さな雷が大量に現れた。俺は目を閉じると、雷龍を解除した。


「雷移」


俺は俯瞰の目で見て王に1番近い避雷針がある場所にほぼ一瞬で移動した。


「うっ!」


王は慌てて攻撃を受け止めると、すぐに転移をして逃げた。俺は俯瞰の目ですぐに王の居場所を見つけて1番近くの避雷針があるところに雷移で追った。こうして俺と王はお互い瞬間移動をしているような戦いを繰り広げた。しかし、それは長くは続かなかった。


「はあ…はあ…」


すぐに俺に限界が来た。一瞬で王の場所を把握し、その1番近い避雷針の場所を把握して移動するというのが戦闘中にやるようなことではなかった。反射神経もそこに使ってしまうので、肝心の雷移の戦闘が疎かになっている。段々とそこを突かれて攻撃され返されるようになってきた。


「これはダメだ」


俺は避雷針を消して目を開けた。この方法は俺の長所である反射神経を無駄にしてしまう。ならどうしようかと考えた時、逆に反射神経に全て頼ろうと思い付いた。


「よし!」


俺が剣を構えると王は俺の後ろに転移していた。俺は王の攻撃を無視して剣を2本頭と腰を狙って横薙ぎに振った。王の刀の峰は俺の頭に、俺の剣は王の頭と当たり、腰はすり抜けた。


「いって…」


頭から血が流れているが、この方法なら確実にダメージを与えることはできそうだ。

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