第552話 困惑

「悪魔王と契約してるのじゃから、さっきの娘と同じくらい戦えることを期待しておる」


「期待に応えられるように頑張るよ」


どうやら、王は俺とソフィが兄妹であることは知らないようだ。


「勝負開始!」


お互いの準備が完了したら勝負が始まった。俺はユグ精霊化、ジール精霊降臨、悪魔化、悪魔憑き、獣化、神雷ダブルハーフエンチャント、雷電エンチャントと全力の強化を一気に行った。


「雷縮」


俺は剣を抜くと雷縮で王に近付いた。


「はあっ!」


「はあっ!」


俺の2本の剣と王の刀がぶつかった。力負けすることは無かったが、勝っているわけでもなく拮抗していた。


「ふっ…」


そんな中、王は一瞬だけ力を抜いて刀を斜めにさせると剣を受け流した。そして、刀を握り直して下からすくい上げるように振ってきた。


「よっ…」


俺はわざとすくい上げられる刀の真上に来るようにジャンプし、刀を闇皓翠で受け流し、そのまま頭目掛けて光皓翠で攻撃をした。それは1歩下がった王には避けられた。


「ふっ!」


「はっ!」


そこからは近接での勝負が始まった。お互いに受け流すのが上手いのと力が同じくらいということでどちらも傷が付かずに戦闘が続いた。


(もしかして、ブロスの能力は有名なのか?)


王は掠り傷すら付かないように立ち回っているように見える。ほんの少しの掠り傷はわざわざ一旦距離を取って仕切り直してまで避けるようなダメージにはならないだろう。そうなると考えられるのはブロスの傷を付けた相手の能力を1つ封印するのを知っているということだ。



「そろそろじゃの…」


「ん?」


王は何かをぼそっと呟くと、俺から距離を取った。


「こんな剣の打ち合いをしたのは久しぶりで楽しかったのじゃ。だが、王として長々と戦っていると威厳が損なわれるからそろそろ終わらせるのじゃ」


「え?」


王がそう言い終えると消えた。どこかを気にする前に真後ろから危機高速感知が反応した。俺は反射的に後ろに蹴りをした。


「かはっ…」


俺の蹴りは王の腹に当たり、王は転がって行った。反射的にしただけの攻撃なので、そこまでダメージはないだろうがやっと1発入った。


「え?」


「なんでじゃ…?」


俺と王は2人とも頭に?を浮かべていた。王は立ち上がることも忘れて困惑している。俺は急に後ろに現れたことに困惑していた。


「ふふふっ…」


場外でソフィが笑っている声が聞こえて冷静になってきた。ああ、今のが悪魔の能力か。瞬間移動?いや、転移という方が近いか。これでソフィの魔法を避けてソフィの上に移動してソフィを地面に叩きつけたのか。まあ、ソフィが俺は相性が良いと言った理由はわかった。


「た、たまたまじゃろ?」


王はそう言いながらふらふらと立ち上がって刀を構えた。すると、一瞬で前から王が消えた。しかし、視線の右隅に王が刀を振っているのが見えたので闇皓翠を水平に振った。


「くっ…」


俺の剣を刀でギリギリガードした王は苦しそうな声を上げた。俺が追撃をする前に王は転移で遠くに逃げた。


「余が転移してから斬る前にお主が斬るとは自動反撃システムでもあるのか!」


「いや…無いけど」


自動反撃システムは少しいいな。不意打ちを絶対に許さないのだろうな。


「なら神にも等しき反射神経がないと無理じゃろ!」


「あはは…」


神速反射という神にも劣らない反射神経を持っているので王の言っていることはほとんど合っている。やっていることは転移で現れる王に反射的に攻撃してるだけだしな。


「じゃが、お主のおかげでずっと試したかったが、使う場面がなかったことが確かめられそうじゃ!」


先程の困惑顔が一変してまるで新しいおもちゃを買って貰った子供のような笑顔になった。


「浮遊」


王がそう言うと、王は地面から10cmほど浮かんだ。これはソフィと同じように重力魔法や風魔法などを利用して飛んでいるな。しかし、魔法にリソースを割いた分、魔力纏が半分近くになったな。


「行くのじゃ!」


王はそう言うと目の前に転移してきた。また反射的に剣を振ったが、今度はガードをするので精一杯だった。


「やはり、これを行うことで早くなるのか!」


「危ね…」


さっきは転移して地面に着地し、それから攻撃だったので、俺の方が早く攻撃できていた。重なるところには転移できないから着地する必要があったのだろう。

しかし、今度は浮かんでいることで着地が要らず、転移してすぐに攻撃してきた。だからガードですらギリギリだったのだろう。


「はあ!」


「とっ…!」


そこからは転移で王の攻撃を防ぐのが続いた。段々とそれにも慣れてきて反撃する余裕も生まれてきた。そんな時だった。


「え…?」


神速反射でも全く反応できずに王の黒い刀が俺の腹を貫通した。


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