第551話 宣言通り

「悪魔化、魔力纏」


王は宣言通り、悪魔の能力を使う気がないのか、悪魔憑きは行わなかった。


「さて、攻めるとするのじゃ」


王はそう言うと共に黒い太刀を抜いた。刀を使う者を見たのは深林に居た変な老人に継いで2人目だな。


「インフェルノ」


「それに似たのはもう見たのじゃ」


王はソフィの魔法を刀で斬り消した。当然のように魔法を斬り消してくるな。

王はソフィに近付きながら放たれる魔法を斬っていった。王の強さはその圧倒的なステータスだろう。素のステータスは俺やソフィよりも上だろうし、そこから更に魔力纏で強化している。ソフィもエンチャントをしているようだが、それでは比較にならないだろう。接近戦を得意としていないソフィは近寄られただけで一気に不利になるだろう。


「魔法転移」


ソフィがこれ以上近寄らせないために魔法を転移させた。


「おっ…!」


王は嫌な予感でもしたのか慌てて飛び退いたが、ソフィの魔法を完全に避けることはできずに腕から血が垂れている。


「ハイヒール」


王はその傷をすぐに回復魔法で治した。


「強い悪魔の陰にまだ強い悪魔がいたのじゃな。これは前言撤回させてもらうかもしれないのじゃ」


王はそう言うと共に悪魔憑きを行った。王もどうやら悪魔の能力を使う気になったようだ。


「はっ!」


王が刀を振ると斬撃が放たれた。その斬撃をソフィは魔法で相殺しようとしたが、相殺しきれずにまだ斬撃はソフィに向かっていった。


「シールド」


しかし、その斬撃はソフィの無属性の壁を突破できずに止まった。


「さっきの斬撃の上位互換か?」


「どうだろうな?」


さっきのアダマーの斬撃は1つだけだが、完全にソフィの魔法を相殺していた。しかし、今のを見ると、王の斬撃は弱い魔法なら何個も斬り消せるが、強い魔法はそもそも斬り消せないような気がする。

それと気になるのは今のが悪魔の能力なのかどうかだ。一見すると側近の悪魔の下位互換のような能力を王が使うのか?


「ふっ!」


王はよっぽどソフィの魔法転移を警戒してか、準備している魔法は全て斬り消すかの勢いで斬撃を放った。少しの間はソフィが魔法を準備して、王がそれを消すことが続いた。


「ん?」


「何してんだ?」


そんな中、突然ソフィは腕を上に伸ばした。すると、空から巨大な炎の球が5つも出てきた。今まで見えないところでずっと準備していたのか。


「場外までには効果は無いので逃げてください」


「これはさすがにやばいのじゃ…」


ソフィは忠告を王にした。1つでも場内と同じくらいある炎の球が5つも落ちてきたら王でも下手すると死んでしまうだろう。これが殺し合いだったら問答無用で転移してきたと思うとゾッとするな。しかし、こんなのが落ちてきたらソフィもきついと思うのだが、どうするのだろうか?


「来るのじゃ!」


「魔法転移」


王が刀を構えたところでソフィは浮かび上がりながら魔法転移でその5つの球を王の懐に転移させた。

ドガンッ!という轟音と共に場内や少し浮かぶことでやり過ごしたソフィも黒煙に包まれた。

少しの間状況が分からない状態が続いた。とはいえ、魔力感知で今はどうなっているかくらいはわかってしまう。ソフィが風魔法で黒煙を上に飛ばしたことで黒煙が消えて場内の様子が見えてきた。



「しょ…勝負あり!」


見えてきたのは凹んだ地面にソフィが仰向けで横になり、そんなソフィを跨ぐように立っている王がソフィの喉元に刀を突き出している光景だった。

勝負ありの言葉で王はソフィの上からどいて、ソフィに手を伸ばした。ソフィはそれを掴んで立ち上がってこちらまでは聞こえない声で王と少し会話した。

その後はすぐに2人は場外へと移動した。ソフィの魔法の爆心地とソフィが横になっていたところのクレーターを直すためだ。



「負けてしまいましたが、宣言通り悪魔の能力は使わせましたよ」


ソフィは俺達の前に来てそう言った。


「その悪魔の能力は何なんだ?」


「秘密ですが、お兄ちゃんにとって相性はいいですので大丈夫ですよ」


「え!?」


ベクアの質問にソフィはまさかの秘密と答えた。


「秘密ってどういうことよ?まさかあんたの愛しのお兄ちゃんに負けろって言いたいの?」


「こんな情報があるかないか程度でお兄ちゃんの勝敗は変わりません。ただ、あのブリジアは自分の能力に絶対の自信があるそうなので、それを何も知らないお兄ちゃんに完膚なきまでにして欲しいだけです。要するに私の仇を取ってほしいってことです」


エリーラの少しイラついたような質問にソフィはさらっと答えた。なんかソフィによる期待値が高いのがプレッシャーに感じてきた。


「さて、もう場内は直ったようですよ」


「あ、本当だ」


話している間に場内は綺麗に戻っていた。


「あれに一泡食わせられれば負けてもいいですから、気楽でいいですよ」


「それがプレッシャーなんだよな…」


俺は誰にも聞こえないくらいの声でそう呟きながら場内へと向かった。


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