第545話 勝負

「こっちじゃ!」


王は意気揚々と家を飛び出し、戦う場所へと案内し始めた。


「村の者よ!これからこの客人達と余と側近で勝ち抜きバトルを始めるのじゃ!見に来たい者は下克上場に集まるのじゃ!」


その声を聞いた村の者はほとんど俺達の後を着いてきた。着いてこない何人かも通り道に居なかった者を呼びに行くようで、家の中に入ったりしていた。



「ここじゃ!」


村から出て1分程の場所に開けていてる場所があった。そこの中心部は1mほどの木の柵で囲まれている。その柵の中の地面は硬そうなコンクリートのようなもので固められていた。柵で囲まれている中はそれなりに広く、半径20m程の円状になっている。


「ここの中で戦うのじゃ。ルールは気絶や降参したり、この柵の外に出たら負けじゃ。もちろん、殺すことは無しじゃ。じゃが、ある程度に傷なら治せるから思いっきりやるのじゃよ」


ここの柵は魔法をかけられていなく、ただ深く刺さっているだけだ。勢いよくぶつかったら柵を壊して外に出てしまいそうだ。その辺は注意しないとな。


「誰でもいいが、幹部3人は審判をやるのじゃ」


王がそう言うと、すぐに3人が手を上げた。その3人のうち、1人は柵の中へ、もう2人は柵の外で場外判定するそうだ。

しかし、こんなことをやるとなったら幹部達が側近達が戦うまでもない、俺がやるとか言うと思った。それが無いのは王の権威が絶対なのか、俺達の実力を見ただけでわかっているかだ。多分、普通に俺とソフィの契約している悪魔が分かるからかな?


「じゃあ、最初は誰が行くか?」


「あ、私が行きます」


ベクアに問いに答えたのはキャリナだった。


「できるだけ手の内を出させて疲れさせようと思います」


「お…」


ベクアが勝つ気の無いような少し弱気な発言をしたキャリナに文句でも言おうとしたのか、口を開いたがその瞬間にキャリナは再び話し始めた。


「もちろん、相手が油断するようなら勝ってきます!」


「なら先鋒でいいぞ。どんな結果になろうと後処理は俺らがしてやるから全力で楽しんでこい!」


こうして俺達の先鋒が決まった。次鋒からは相手を見てから相性が良さそうな者が戦うつもりだ。


「では、先鋒は場内に来てください」


「はい!」


キャリナは元気のいい返事と共に柵を飛び越えて場内に入っていった。


「相手は…アディだったか?」


俺達の反対側から場内に入ってきた側近はアディという女だった。そのアディはスレンダーで他の誰よりも軽装で装備は皮の胸当てをしているくらいであとは薄手の普通の服だった。両手にはナイフを装備している。予備なのか、腰にはまだ2本のナイフを装備している。

ただ、なんと言っても特徴的なのは耳の部分にある大きな羽根だろう。パッと見では飾りのように見えるが、よく見ると、あれは耳の代わりに生えているように見える。



「勝負開始!」


なんてことを考えていたら戦いが始まった。審判が言ったようにこれは試合ではなくてただの勝負だ。だからキャリナもベクアの言った通り楽しむくらい気持ちでの気楽で戦ってほしい。


「獣化、闇纏!」


「悪魔化、悪魔憑き」


お互いが試合が始まった瞬間に自分の強化を行った。しかし、その後は少しの間睨み合いが続いた。その睨み合いに終止符を打って動き出したのはアディだった。


「はっや!」


横でベクアがそう呟いた。アディは何もせずにただ真正面から向かっていっただけだが、それでもかなり早かった。そして、そのままキャリナに斬りかかったが、キャリナはギリギリのところで鉤爪でガードした。


「相性的には案外いいかもしれませんね」


「だね」


キャリナは防戦一方である。しかし、逆に言うと、防戦はできているのだ。これはキャリナの眼が良いからだと言える。眼が良いおかげで速いアディの姿を捉えられているからガードできている。そして、段々とその速さに眼が慣れてきたのか、少しづつ反撃をするようになっていった。



「おっ…止まった」


キャリナが防御よりも攻撃が多くなったあたりで、アディは攻撃をやめてキャリナから離れた。


「ふぅ…」


まるで今のは準備運動とでも言うかのように軽く一呼吸すると、アディの足は地面から数センチ浮いた。


「ふっ…!」


そして、アディは浮いたままさっきよりも数段速いスピードでキャリナに迫っていった。

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