第499話 作戦

「ありがとう。じゃあ私はベヒモス討伐に向かう手配を始めるわ。その間に少しでも作戦を考えておいて」


ギルド長はそう言うと、部屋から出ていった。


「お兄ちゃんはベヒモスの特徴を知ってますか?」


「特徴?」


ベヒモスの知っていることはその巨大な姿というくらいだ。元々SSSランクの魔物なんて過去にもそう何回も出現していないので、世間には情報は姿くらいしか出回っていない。


「ベヒモスはその巨体故にHPと攻撃力と耐久力がSSSランクの中では飛び抜けているとされています。しかし、逆に巨体故に小回りができず、俊敏性はあまりありません」


ソフィはいつそんなことを調べていたのだろう?


「魔法を使うことに関しては分かりませんでしたが、SSSランクの魔物なので平気で使ってくると思います」


「まあ、そうだよね」


SSSランクともなるような魔物が魔法を使えませんなんてことはないだろう。


「これは推測になりますが、ここに私を含める居る誰の通常攻撃でもダメージはほとんど与えられないと思います」


それを聞いて誰かの唾を飲み込む音が聞こえてきた。


「しかし、巨体なため、注意していれば攻撃に当たることも無いでしょう。そのため、長期戦になることが予想されます」


こっちの攻撃は効かない。しかし、相手の攻撃は避けられる。確かに長期戦になりそうだ。


「そこで1番の要になってくるのはこの中での最大火力を持っているお兄ちゃんでしょう」


「…霹靂神か」


ソフィの言う最大火力というのは霹靂神で間違いないだろう。あれは作るのに時間がかかるが、ベヒモスの巨体とほとんど変わらない雷の塊を落とす魔法だから流石のベヒモスでもダメージは受けるだろう。


「ただ、霹靂神は1度放つと、リヴァイアサンの時のように2回目以降は警戒してまともに食らってはくれないでしょうし、1回当ててしまうとかなり警戒させてしまうことになります。ですので、霹靂神は最後のトドメとして使ってもらいます」


リヴァイアサンの時も1度目の霹靂神で子供リヴァイアサンを倒せたが、2回目にはちゃんと防御されてしまったな。


「ベヒモスが王都にやってくる間に倒せるかどうかはお兄ちゃんに霹靂神を作るだけの時間を用意させること、霹靂神をガードされないようにすること、霹靂神を当てるまでにどれだけHPを削っておくかの3つにかかっています」


ソフィが俺が要と言った通り、作戦のほとんどは俺が中心になっている気がする。


「もちろん、お兄ちゃんには霹靂神の準備のためにずっと暇してもらう気はありません。霹靂神を除いても火力が高いお兄ちゃんは攻撃にも参加してもらいますよ」


「分かってるよ」


王都の近くで戦っているソフィ達とベヒモスがやってくるのを霹靂神の準備をしながら呑気に待っているだけなんてごめんだ。


「ベヒモスという魔物自体がほとんど謎に包まれていますので、作戦なんて作戦はありません。ですので、お兄ちゃんが霹靂神の準備をするまでは周りに気をつけながらそれぞれがベヒモスに有効な攻撃を仕掛けて、お兄ちゃんが霹靂神の準備を始めたらさっきの3つを守れるように行動しましょう」


「分かった」


「ん」


「分かったぜ」


「分かったわ」


「分かりました」


ソフィが主体となってまとめてくれたので、全員が納得する作戦はすぐに決まった。


「馬車の準備ができましたよ」


ちょうど、タイミング良く馬車の準備ができたようで、そう言いながらギルド長は訓練所に入ってきた。

ちなみに、ベヒモスまでの移動だけなら馬車なんて使わず、走っていけばいい。そのため、馬車は移動のために使うというよりも、負傷者が出た時に乗せて避難させるために必要なのだ。


「みんな、馬車に乗っていくわよ。ちなみに、御者はAランクの冒険者にお願いしてるから、あまり御者に気を使って戦闘する必要は無いわ」


ギルド長はそう言うと、再び訓練所から出ていった。そして、俺達もギルド長に続くように訓練所から出て行き始めた。


「お兄ちゃん…」


「何?」


しかし、俺はソフィに袖を掴まれてその場にとどまった。全員後ろを振り向いてそれを見ていたが、何も言わずに出ていった。


「…もし霹靂神でトドメを刺せず、王都にベヒモスがやってきたとしても神雷Lv.1だけは使わないでください」


そして、全員が出ていくと、ソフィはそう話し出した。


「…俺の片腕で何万人っていう命が救えるなら使うと思う」


比べて確かめたことは無いが、本来の俺の最大火力は神雷Lv.1だろう。神雷Lv.1は霹靂神と違ってノータイムで放てるが、代償として1ヶ月の間は使えなくなるし、なにより俺の片腕が消し飛ぶ。


「もうお兄ちゃんの腕を治せるハイエリクサーは無いのですよ!王都にいる何万人が不幸になろうと、私はお兄ちゃんに…」


「ソフィ」


ソフィの言葉を途中で止めさせた。誰も居ない訓練所とはいえ、ここは自由に出入りはできるので、誰かに聞かれる可能性がある。

ちなみに、綺麗に腕が斬られた場合であれば、切れた状態の腕をくっ付けてエリクサーをかければ腕は治る。しかし、消し飛んだ場合は傷は塞がるであろうが、エリクサーでは腕が治ることは無いだろう。


「ソフィがなんて言っても俺が使う必要があったら使うってのはソフィが1番わかってるんじゃないか?」


「……」


俺がそう言うと、ソフィは黙って俯いた。


「とは言っても、俺も極力使いたくはないよ」


誰が好き好んで片腕を消し飛ばしたいと思うんだ。


「だから、そうならないように俺も頑張るし、ソフィも頑張ろうよ」


「…分かりました。お兄ちゃんに絶対に使わせないように私が頑張ります」


ソフィはそう言うと、俺を追いていく勢いで訓練所から出ていった。そして、俺もソフィの後を追って訓練所から出ていった。

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