第498話 特別依頼

「俺達も参加するからお前らも安心しろ」


「ウォレス!」


部屋に入ってきてそう言ったのはウォレスさんだった。ウォレスさん達パーティとは久しぶりに会う気がする。



「Sランクパーティがベヒモスの相手をしてくれるなら…」


「それなら勝てるかも…?」


ウォレスさん達の登場でみんなが少しやる気に満ちてきた。

というか、ウォレスさん達は前まではAランクだったが、どうやらSランクになったようだ。


「これはあくまで依頼で、強制ではないわ。ただ、報酬が欲しい者、ランクを上げたい者、生き残りたい者は受けるといいわ。ベヒモスに関しては私達がどうにかするわ。この依頼を受けるものは受付に行きなさい」


「ギルド長も出るなら受けるぞ!」


「そうだな!ドラゴンも倒せたんだからベヒモスも倒せるだろ!」


「金欠だったからちょうどいいぜ」


ほとんどの全員が受けるようなことを言いながら訓練所から出て行き始めた。俺達も行こうかな?と思っていると、俺の後ろから両肩に手を置かれた。



「ゼロスちゃん達はちょっと待っててね」


「はい」


俺の両肩に手を置いたのはティラさんだった。


「ゼロスちゃん達が驚いてくれなくなった…」


前までは隠密の効果で全く気配が分からなかったが、今はギリギリでわかるようになっていた。



「さて、残ってもらって確信してると思うけど、君達とシャイナの計6人でベヒモスの相手をしてもらうわ」


「あれ?ウォレスさん達とギルド長は?」


今の話をそのまま解釈すると、ベヒモスと戦うのは俺達だけで、ウォレスさん達とギルド長は戦わないみたいだ。


「さっきは奮起させるためにああ言ったが、俺達は戦わないぜ。俺達も強くなったが、ベヒモスのようなSSSランクに勝てると言えるほど強くなってない。せいぜいパーティでSランクを狩れる程度だな」


普通だったら、Sランクをパーティの面子だけで狩れること自体が凄いのだ。ウォレスさん達だけでドラゴンを倒せるということだしな。



「俺達がすることはゼロス達がベヒモスだけに集中できるように周りの魔物や一般人を寄せ付けないことだ。それと、もしもの場合にベヒモスに対抗できるゼロス達を死なせずに連れ帰ることだ。まあ、ベヒモスに近付く分、他よりも多くの成功報酬を受け取るぜ!」


つまり、ウォレスさん達とギルド長の役目は俺達のサポートということになるのか。


「ギルドに登録してない俺たちも依頼に参加できるのか?」


俺の横でベクアがそうギルド長に聞いた。確かに、ギルドの依頼はギルドに登録していないと受けられない。


「これから一応Dランクとして登録してもらうことになるけど、問題は無いわ。ベヒモス討伐は国からの直接依頼になっているのよ。内容は君達6人でベヒモスを討伐せよっとね」


なるほど、国から金が出るから黒貨2枚という破格な報酬を出せたのか。


「もちろん、君達がリヴァイアサンを討伐したのは聞いているわ。だからギルドもこの依頼を受注したのよ」


なるほど、国としてもリヴァイアサンというSSSランクの討伐実績のある俺達に直接依頼をしてきたのか。


「それで、…」


「ごめん、遅れた」


「あ、シャナ!」


ギルド長が何かを話そうとした時にシャナが訓練所へと入ってきた。


「父様と色々話してたら遅れた」


「大丈夫だよ」


あ、なるほど。シャナが国王様に何かを言ってくれたおかげもあってこの特別依頼が生まれたのかもな。

ううんっ!と咳払いをしてギルド長はさっき言おうとしていた続きを話し始めた。


「ゼロス、ソフィア、シャイナ、ベクア、エリーラ、キャリナの6名に特別依頼を出します。依頼内容は明朝に王都にやってくると予想されているベヒモスの討伐および、撃退です。報酬は黒貨1枚、討伐時には追加で黒貨1枚です。あなた達が受けてくれないとなると、王都から急いで住民の避難を開始しないといけません。また、あなた達がこの依頼に失敗すると、大勢の死人が出ます。かなり責任を押し付けてしまうことになりますが、受けてくれますか?」


リヴァイアサンの時は海での戦いということで、俺達が仮に失敗しても死人は出なかっただろう。しかし、今回は王都に一直線に向かってきているので、俺達が失敗してしまうと、大勢の命が失われる。仮に何とか避難が間に合ったとしても、王都は再起不能なレベルに崩壊してしまうだろう。つまり、俺達の行動で何万という人達の運命が変わってしまうのだ。


「お兄ちゃん」


「ソフィ…」


俺がそんなことを考えていると、ソフィが頭を撫でてきた。


「お兄ちゃんがどのような選択をしても私はお兄ちゃんを見捨てません。どんな結果になって、どこの誰にどれだけ恨まれようとも私はお兄ちゃんと絶対に一緒に居ます。それに、元々ベヒモスとまともに相手をできる人が私達しか居ないから私達にきた依頼ですよ?だから最悪の結果になろうとも文句を言われる筋合いはありません」


「…ありがとう」


俺はソフィにそう言って頭を撫で返した。すると、ソフィは俺の肩にとんっと頭を乗せてきた。

ソフィの言う通り、俺達が依頼を受けなかったら王都は再起不能になることは確定するんだ。それで困る人は数え切れないほどいるだろう。みんなを救う方法はベヒモスをどうにかするしかない。ソフィに励まされてしまったな。

シャナ、ベクア、エリーラ、キャリナの方を向くと、全員が頷いてくれた。



「その依頼、受けます」


俺は顔を上げてギルド長の目を見ながらそう力強く言った。

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