第493話 無理難題
「じゃあ、3時間くらいシャナが勉強をお兄ちゃんに教えてくれますか?」
「……ん。分かった。教える場所は私が決めていいの?」
「シャナが自分で考えた場所なら問題ないですよ」
「ん」
図書室に入り、席に着くとまた2人だけでそう会話をした。相変わらず、俺は置いてけぼりだ。
ちなみに、授業中なのか、図書室には俺達しかいない。だからある程度大きな声で話しても平気そうだ。
「じゃあ、ここからここまでをとりあえず暗記して」
「おおう…」
シャナはソフィが山のように積み上げた本の中から参考書のようなものを1冊選んで俺に数十ページ暗記するように言った。
ソフィは少し離れたところで紙に何かを書いている。
「制限時間5分」
「ちょい!?無理だろ!」
パッと見た感じ、国の歴史っぽい内容だったが、文字だからけの数十ページを5分で暗記は無理だ。
「暗記できなかったら罰があるから。始め」
「うおぉぉ!」
だが、シャナからの慈悲は無いようだ。しかも、暗記できなかった時には罰があるそうだ。罰の内容を言わないのが恐ろしい。聞きたい気もするが、今は1秒すら惜しいから後にしよう。
「終わり。じゃあ軽くテストするよ」
「おう…」
シャナが口頭で問題を出てきた。俺はそれらを答えていった。
「全問正解」
「よかった…」
シャナから出された20問を俺は全て正解することができた。多重思考を使ったおかげで意外と覚えきることができた。何となくページ数を数えてみたら40ページはあった。多重思考を使ったとしても、暗記できるのがかなり早い。もしかすると、ステータスの【知力】が暗記に関係あるのかもしれない。
「余裕そうだったから次はここからここと、ここからここを3分。始め」
「ぎぇぇ!!」
シャナは違う参考書を取り出して、休みも無しに次の暗記の命令をしてきた。ページ数はほとんど変わっていないのに、次は3分しかない。俺は参考書に穴が空くんじゃないかと思うくらい、じーっと見て暗記していった。
その後も次々と課題を出され、俺はそれを執行していった。
「お待たせしました」
シャナに言っていた通り、ソフィは3時間すると、俺たちの元に紙の束を手に戻ってきた。
ちなみに、シャナの課題はソフィの言っていた2時間が終わるまで続けられた。その間に20冊近くの参考書や教科書の一部を暗記しただよう。
「私が恐らく出るであろう問題を紙に書いておきました。お兄ちゃんが知っている魔物関係や魔法関係、戦闘関係は除いておきました」
ソフィはそう言いながら紙の束を俺の前の机にドンッ!と置いた。
「えっと…これをどうすれば…」
「全部暗記してください」
「ですよね…」
ソフィが置いた紙の束は軽く辞書を越える量はある。それなのに、紙一面にびっしりと文字が書いてある。
「裏もか…」
ちらっと1枚めくったが、裏面までびっしり書いてある。
「すみません、1番最後の紙は裏の半分くらいまでしか書いてません」
「そっか」
その情報を聞いても、だから?という感想しか出てこなかった。こんな束の中で1枚だけ裏があろうが、なからろうとそれは誤差に近い。
「お兄ちゃん、これを1時間で覚えてください」
「…その前にこれって何枚あるの?」
「572枚ですね」
つまり、本にして換算すると、1144ページになるのか。…多分広辞苑よりは全然少ないと思うが、それでもきつい…。
「試験に受かりたいなら頑張ってください」
「そうだね…」
ソフィは俺に意地悪をしたくてしている訳では無い。俺に受かって欲しいからこんなにしてくれているのだろう。時間制限の1時間もこの後に覚えたかどうかのテストをすると考えれば、試験までの時間ギリギリになっている。
実際にソフィがこれを作るのも大変だったと思う。魔法を使ったにしてもどうやって作ったんだ?
「始め!」
「……」
俺は無心に近い形で次々に暗記をしていった。
「私も少し見ていい?」
「いいですよ」
シャナとソフィが話している声が聞こえているが、なんて言っているかも分からない。
『ピコーン!』
『【称号】速読速覚 を獲得しました』
『思考加速Lv.1を取得しました』
『高速読書Lv.1を取得しました』
『高速知覚Lv.1を取得しました』
何かアナウンスが聞こえた気もするが、それも頭に入らないほどにこの1時間は集中していた。
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