第492話 新制度導入の理由

「えっと…2人は試験に受かる自信あるの?」


学園長室から出て、廊下を歩き出した時に俺は2人にそうと問いかけた。


「ん」


「はい」


俺の問いに2人は自信満々ではなく、さも当たり前のように肯定した。


「な、なんで…?」


「勉強してたから?」


「試験合格程度の知識は入学前から持ち合わせています」


「チートだ…」


俺は精霊、悪魔、獣と契約しているし、神雷まで使えてかなりのチートだと自分でも少し思っていたが、ここにもっとチートの奴らが居た。


「まあ、お兄ちゃんは今やったら確実に落ちますね」


「ん」


「ちょい!?」


2人はそのことを分かってて今日の試験を選んだの!?もしかして、俺を試験に落としたいのか…?


「そう心配しなくても大丈夫ですよ」


ソフィはそう言うと、マジックリングから大量の本のようなものを取りだした。


「今から図書室で合格できるまで2人がかりで教え込んであげますから」


「【知力】も上がってるから大丈夫」


「まじか…」


これから試験までの猛勉強が確定してしまった。ソフィは俺に教科書類を見せつけると、すぐにマジックリングにしまった。


「では、図書室に行きましょう」


「そうだね…」


勉強はしたくないが、試験には落ちたくない。嫌だけど、頑張って勉強するしかない。



「ソフィは気付いた?」


「何をですか?」


「ん?」


シャナが歩いている途中でよく分からない質問をソフィにした。


「なんで私達を早く卒業させたいのか」


「予想はついていますよ」


ソフィがシャナにそう答えると、シャナはソフィの顔をじーっと見た。恐らく、心眼のスキルで心を読んでいるのだろう。


「当たってる」


「それなら良かったです」


「えっと…よく分からない俺に説明が欲しいんだけど…」


2人の中では解決したみたいだが、俺には何の話かよく分かっていない。


「ゼロは学園が何で私達だけを早く卒業させようとしてると思う?」


「あー…そう言われてみると、何でなんだ?」


対校戦本戦出場の特権で普段からほとんど学園には行っていない。だから卒業しようが、しないが、あまり変わらない気がする。


「まず、1つの理由は実力では私達が教員よりも勝ってるから」


在校生よりも実力が明らかに劣っていると露見するのは先生の威厳が低下するらしい。何となく察しているのと、実際に実力差を見たのとでは違うらしい。


「次にそもそも学園に通ってないから、さっさと卒業してもらいたい」


学園にほとんど通っていないのに、俺達が何か問題を起こしたら学園に通っている学生となってしまう。逆に良いことをしても同じように学園に通っている学生となるのでは?と思うが、そうはならないらしい。悪いことの場合は責任元を探すために学園に通っている学生ということになり、学園が少しではあるけど責任を取らなければならなくなるそうだ。


「まあ、他にもいろいろあるけど、それらは1番の理由じゃない」


「え?じゃあ1番は?」


今の2つも1例というだけで、メインの理由ではないらしい。ならメインの理由は何だろう?


「私達が園内戦と対校戦に出ないようにするため」


「え?」


俺が予想だにしない答えだったので、普通に聞き返してしまった。


「私達3人が居るだけでここの学生は代表に選ばれる数が減るし、他の国からしたら勝ち目が無くなる」


「私達が居ると、エルフや獣人やドワーフから留学生が来るからさらにそうなります」


えっと…つまり、俺達を園内戦と対校戦に出さないために卒業させたいってことか。


「そうなこといいの?って言うか、園内戦はともかく、対校戦ではマイナスしかなくない?」


園内戦ならまだしも、対校戦で俺達を出場させなくするメリットがない気がする。対校戦を勝ちたくないのか?


「普通はダメ。逆に言えば普通じゃなければいい」


「普通じゃないって…?」


「賄賂」


随分と生々しい話になってきたな…。


「かなりの額になるものを貰ったって父様は喜んでた」


国同士でそんなやり取りがあったのかよ…。まあ、優勝したことで宝物庫から好きなものを持ってっていいと言われたくらい対校戦は大事なんだろうな。


「ちなみに、私達を出さない条件に留学生の出場を2年間禁止した」


まあ、俺達を出すなっと言っておいて、他は戦力を外部から得るのはダメだろう。ちなみに、勇者達はもう去年で卒業しているから出れない。


「留学生が居なければ私達が出なくても普通に勝てそうですね」


「あ、クラウディア!」


俺達は出れないが、クラウディアは変わらず出場することができる。俺達の影に隠れていたが、クラウディアは学生と比べると桁違いに強い。クラウディアがいれば、余程のことがない限り対校戦に負けはしないだろう。

国王様は優勝できるという自信があったから賄賂を得て俺達を卒業させたのか。俺が考えていた対校戦に負けるというデメリットはそもそもなかったのか。


「私達のおかげで賄賂を貰えて、私達には何も無いんですか?」


「第2宝物庫から良さそうなものを何個か貰ってきた」


「ならいいです」


シャナが貰ってなかったらソフィはどうしたのだろうか?気になるが、怖いから聞かないでおこう。


「さて、着きましたよ」


「うっ…」


なんて会話をしていると、図書室についてしまった。これから俺は数時間勉強しないといけないのか…。

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