第482話 ついに


「だあー!くそっ!」


もう夕方になってきたが、未だにディーネに何もできていない。

神速反射のおかげで何とか致命傷を避けているが、俺から攻撃することすらほとんどできていない。今も回避するので精一杯だ。


「っ!」


危機高速感知が反応して逃げようとしたが、もう遅かったようで俺は剣を自由に振り回せるくらい広い水の檻の中に閉じ込められた。


「ちっ!」


俺は急いで檻の柵を氷の剣で斬り消そうとしたが、俺の剣を避けるように水は形を変えた。もう地面を掘って抜け出すしかないか。


「くそっ…!」


しかし、今度はその柵から水の槍が放たれてきた。俺は当たらないように必死で避けたり消したりした。だが、このままだと槍が当たるのは時間の問題し、地面を掘る余裕なんて無い。どうにかしないと…!



「ゼー、大変そうだね」


「んあ!?」


檻の外から声が聞こえたので、ほんの少しだけ意識を向けると、そこには3人の人影があった。


「アーテルか!」


「そうだよー。今日はこの2人も誘ったんだよ。もちろん、2人ともそれぞれの契約者には許可取ってるよ」


檻の外にはアーテルと男と女の精霊が居た。男の精霊がジュディーさんと契約している重力の最上位精霊のグランで、女の精霊がエミリーさんと契約している自然の最上位精霊のネイだそうだ。


「大変そうだけど、手助けはいる?」


「おね……」


お願いと言いかけて途中で止まった。俺が今こんなに大変な思いをしているのはアーテルの力を借りてディーネの課題をクリアして、課題のレベルが上がったからだ。

もちろん、それを悪いこととは思わない。むしろ、他の人と契約している精霊との精霊降臨を試せた良い機会だったと思う。だが、今から再びアーテルの力を借りてどうなる?いつもはそばにアーテルは居ないのだ。アーテルの力を借りて強くなっても、それでは意味が無い。



「いや…!自分で頑張ってみる!」


「そっか。応援してる」


「ありがとう!」


なんて強がったが、水の槍を防ぐの精一杯で他に何かをやる余裕もない。そんな状態だが、この状況を打開する方法がない訳では無い。


「くっ……」


その方法に意識を引っ張られるせいか、槍に当たる回数が増えてきた。



「っ!」


俺の中で何かがピタッ!とハマるような感覚があった。今ならできる!


「転移!」


俺はユグの精霊魔法で檻の外に転移した。


「まじかっ!」


しかし、今度は水の檻が巨大な水の槍に変化して俺に向かってきた。


「雷龍!」


俺はそれにジールとの精霊魔法である雷龍をぶつけて相殺した。


「やっとできた…!」


俺はやっと精霊化状態で精霊魔法を使うことに成功した。


「おめでと〜」


ディーネもこれには手をパチパチと叩いて祝福してくれた。


「なら、今よりも少しキツめにしても問題ないよね〜」


「えっ…?」


ディーネはそう言うと、俺の胴体よりも太く、長い槍を何本も作り出した。


「いくよ〜」


「まっ…雷壁!」


俺は放たれたそれらを雷の壁で防いだ。すると、次は危機高速感知が後ろから反応したので、しゃがむと、頭の上に普通のサイズの槍が通過した。俯瞰の目で見ると、後ろにディーネがいた。


「はっ!」


俺は反射的に手に持っていた氷の剣を後ろに2本とも投げた。


「模造!」


そして、氷の剣を槍で防いでいる間に俺はユグの精霊魔法で闇翠と光翠とほぼ同じの剣を作り出した。まあ、同じなのは形と重さだけで本物ほどの切れ味も硬さもない。でも、低いスキルレベルの氷魔法で作り出した氷の剣よりは何倍もマシだ。


「雷刃!」


俺は至近距離で剣を降って雷の刃を放った。これは簡単に槍でガードされたが、その間にも更に近づいて近接戦を持ち込むことができた。


「くっ…!」


近接戦は自信があったのだが、俺の剣は簡単にいなされる。



「雷爆雨!」


そこで、触れると激しく爆発する雷を雨のように振らせたが、それも槍を回転させて全て槍で防がれた。そして、再び距離を取られてしまった。


「水龍」


「ちょ!雷龍!」


距離を取った瞬間に俺の雷龍の10倍は大きいだろう水でできた龍を出して放ってきた。俺は慌てて雷龍を5発放ったが、その程度では相殺できずに雷龍をも飲み込んで向かってきた。だが、この隙に避難することはできた。


「無茶苦茶だな…」


あれほど巨大な魔法を一瞬で作り出すのだからさすがは最上位精霊だ。

そして、精霊魔法を使えるようになった今ではさっきまでとは違ってちゃんと戦いになっている。


「雷縮!」


俺は近寄ったり、遠ざかったりしながらディーネの相手をした。ディーネの魔法はジール精霊魔法で防ぎながらその日は寝もせずに朝まで戦い続けた。

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