第452話 弱点

「はっ!」


「ふっ!」


俺とベクアは2人で模擬戦のような形で戦っていた。今回は使っていいアクティブスキルは魔力纏だけという条件で行っている。なので、エンチャントや獣化や魔法などは使えない。


「ふんっ!」


「くっ…」


俺が腹に良い一撃を貰ってしまった。思わず膝を着いたタイミングでベクアの回し蹴りが顔の横にやってきた。何とか剣でガードしたが、膝を着いているせいで踏ん張ることもできずに吹っ飛んで行き、勢いよく岩にぶつかって止まった。


「これで俺が12勝9敗になったぜ」


「くっそ…」


今日もベクアとの模擬戦で負け越している。ベクアが魔力纏にかなり慣れてきてからはベクアとの特訓ではほぼ毎回この形式の模擬戦をやっているのだが、毎回勝率は4割を少し超えるくらいで負け越している。

試しに1日だけアクティブスキルを完全に無しで模擬戦を行った時の勝率は4割を完全に下回った。

つまり、俺の方が魔力纏がベクアより上手なおかげで何とか4割強までに勝率が上がっているということだ。

つまり、純粋なステータスと剣法や武法などのパッシブスキルのどちらか、もしくはどちらともで負けているのだ。俺の予想では多分どっちとも負けている気がする。なぜなら、俺の神速反射はパッシブスキルなので普通に使っている。それだけで本来なら大きなアドバンテージのはずなのだ。神速反射はあくまでも反射神経がとてつもなく速くなるだけで、反射してからの行動まではスキルに含まれていない。



「何でこうも負け越すんだ?」


だからといって俺も何も工夫していない訳では無い。ベクアよりもより魔力纏を上手くできるようにしたり、危機高速感知や神速反射を有効活用しようともしている。


「もう手紙も揃ってるし、何で俺が勝ち越せているのかを教えてやるぜ」


ベクアがニヤリと笑ってそう言ってきた。

それと、ベクアの言う通り、手紙の返事は全て揃っている。そのどれも俺達がドワーフ国に行くのを許可する内容だった。

それなのに、なぜまだこの街に居るかと言うと、竜車の御者の件だ。調教はしっかりできているとはいえ、万が一暴れた時に備えて竜車を引くアースドラコというB+の魔物を簡単に制圧できる者が御者をしなければならない。それに加えて操縦は普通の馬とは全然違うそうだ。だからその2つを兼ね備えている者がウカクと入れ替わりになるので、その者が首都からやってくるのを待っているのだ。


まあ、そんなことよりも俺がベクアに負け越す理由の方が大事だろう



「ゼロスは反射神経はずば抜けている。もちろん、俺じゃあその反射神経には全く着いて行けねぇ。だから本来は攻撃は当てられないんだが、これはゼロスがその反射神経を使うのに慣れすぎているせいか?どういう攻撃時にどう反射的に動くかのパターンがかなり癖として固定になってるんだ。俺はそれを読んで先回りで攻撃してるってことなんだぜ。まあ、お互いに全力の戦闘になったら、ゼロスの手数が増えるし、俺のやることも増えるからそんな先読みをする余裕なんてないんだけどな!」


「そうだったのか…」


驚きと同時にどこか納得してしまった。進化した今ほどでは無いにしろ、この優れた反射神経は前世から持っている。つまり、もう30年近い付き合いになるのだ。だから反射的に動くのに慣れていて、反応パターンが決まっても不思議ではない。


「とはいえ、どうしようか…」


反射的に動くのは完全に無意識の動きだ。それを意識して動こうとすればもうそれは反射的な動きではない。


「まあ、そこまで気にしなくてもいいと思うぜ。ゼロスとこれまで百以上と模擬戦をしてきた俺がやっと見つけられた癖なんだから、数回戦ったって絶対に気付かれることはないぜ。もし気付くことがあるとしたら、よくゼロスを見ているソフィアくらいだと思うぜ。

それにさっきも似たようなことは言ったが、これはゼロスが獣化やエンチャント無しかつ物理攻撃のみっていう縛りがあるから使えるんだ。もっと致命的な弱点ならすぐに言ってたぜ」


「そうか?」


ベクアがそう言うのなら大丈夫なのだろう。だが、なぜか不安になってしまう。俺の考えすぎならいいが、これは弱点であるのは変わらない。だから今すぐにとは言えないが、対応策を考えておいてそのうち直した方がいいな。


「それよりまた怒られるから、早く帰るぞ」


「そうだな」


俺達は遅いと怒られないように日が暮れる前には帰った。

どうにか解決法を考えていたが、特に良い改善方法が思いつく事はなく、首都から竜車の御者をやってくれる者が到着した。



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