第453話 出発
「お待たせした」
「お待たせしてしまい、申し訳ありません!」
「あ、ゾーリ!」
王都から竜車の御者としてやってきた2人のうち、1人は俺がこの前の獣人国の大会の予選の決勝で戦ったゾーリだった。
「こいつは馬の獣人のウーマンだ。とても緊張しているが、仲良くしてやって欲しい」
「よ、よろ!よろしく!おねっお願いします!」
そう言って、俺らと5歳程度しか変わらないように見える獣人が腰を90度近く曲げて頭を下げて挨拶した。この人は名前の通りか、女性で足がスラッと長く、モデルのようなスタイルをしている。
「まだこいつは若く、王族の護衛見習いだが、竜車の運転は上手だからそこは問題ないよ。男よりも女の子の方が多いから何か俺に言いずらいこととかがあったらウーマンに言ってくれ」
「ひゃ、ひゃいっ!よ、よろしくです!」
ウーマンさんはまだかなり緊張しているようだけど、そのうち慣れてくれるといいな。
「それでは竜車のメンテナンスをしてから出発したいと思います。長旅になると思いますが、楽しんでいきましょう」
ゾーリはそう言うと、宿の裏に置いてある竜車をウーマンと共に見に向かった。
「ドワーフ国の中心都市まではどれくらいかかるんだ?」
「軽く深林を通って近道はするが、それでも3週間はかかるだろうな」
「まあ、しょうがないか」
俺の質問にベクアが答えた。この街に来た時よりも長旅になるみたいだが、ドワーフ国に行ってグラデンに会い、良い装備を作ってもらうためなのでそれくらいは仕方がないだろう。
「旅も長いんだし、気長に行けばいいぜ」
「だな」
獣人国からドワーフ国は深林を挟んで反対側にあるので、少し時間がかかるのは仕方がないことだ。
「移動中は何しようか?」
昼や夜の休憩時間では模擬戦でもして時間を潰せるが、竜車の中にいる時はそうする訳にもいかない。
「俺は魔力纏の練習でもしてようと思う。あれなら竜車の中でも問題ないからな。それにまだ俺の魔力纏はゼロスに比べて拙いしな」
「確かに…」
ベクアの言う通り、魔力纏なら特に動く必要も無いし、纏うだけなので竜車を傷付ける心配もない。
「俺は何をしよう?」
ベクアの話を聞いて俺も魔力纏の練習でもしようかとも思ったが、特に練習することがない。常に使っているだけでもスキルレベルは上がるだろうが、その上がり具合は実戦中に使うのと比べたら天と地ほどの差があるだろう。
「でしたら、私が超至近距離から無属性魔法を放ちます。お兄ちゃんはそれをナイフで切ってください」
「竜車に傷付けない?」
「もしお兄ちゃんに当たらなくても問題ないよう威力はかなり抑えます」
それなら俺の神速反射のスキルレベル上げになるのでないか?それなら一応実戦に近くはなるので、一緒に魔力纏を使ってもいいかもしれない。
「ちなみに、シャナは何をやる?」
「私は外を見る。処理能力をあげる」
詳しく聞くと、シャナは竜車の窓から外を見て、すぐに移り変わる景色の中の一つ一つの物を認識する練習をするそうだ。確かに処理能力を上げるのにはいいかもしれないが、かなり疲れそうだ。
「キャリナばどうすんだ?」
「私は魔法の練習をします。ベクア兄様に当てたらダメージを確実に入れられるくらいにはしたいです」
ベクアの質問にキャリナはそう答えた。キャリナは窓の外に風魔法などの比較的被害が出ない魔法を細々と使うそうだ。それで精密な魔力コントロールを身に付ける気なんだそうだ。
「エリーラはやっぱり精霊魔法の練習か?」
「私はもちろん、精霊降臨による水操作の範囲を広げる練習をするわ」
エリーラはやはり精霊魔法の練習をするようだ。もしかすると、本気で俺を即死できるだけの力を付けようとしてるんじゃないよね?
「まあ、個々でトレーニングをするのは自由だけど、緊急時にはすぐに戦闘できるようにしておいてくれよ?特訓で力を使い果たしたってことは無いようにね?」
「それは常識だから確認しなくてもここに居るやつらは分かってるぜ」
ベクアの考えに同意するようにみんなは頷いていた。みんなが分かっているなら良かった。
「竜車が準備出来ましたよ。皆さん、竜車に乗ってください」
「分かった」
何てこれからのことを話していると、竜車を操縦しながらゾーリとウーマンが現れた。ちなみに、今はゾーリが操縦をしていて、その横にウーマンが居る。
「これまでご苦労だったな。ウカクも長い間ありがとう」
「いえ、大変良い休暇でした」
ベクアが王子らしいことをウカクに言うと、ベクアから順に竜車に乗り込んで行った。
そして、全員が乗り込むと、ここで別れるウカクに見送られて俺達は海の街オーシャンを出発し、ドワーフ国へ向かって行った。
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