第420話 勝敗

「インフェルノ」


「…雷縮」


イムが飛び散った身体を元通りにする間に悪魔化と悪魔憑きとエンチャントを済ませていたソフィは、イムの周りで火魔法を複数転移させた。

少し離れた俺まで熱が伝わってくる。地上に居るのは危ないと判断して、俺は空中に移動した。


「そんな攻撃じゃあ僕を倒せないよ?」


炎の中からイムがそう言いながら歩いて出てきた。


「お兄ちゃん、真似します。流星群」


ソフィはそんなイムの言葉を無視して、空から炎や雷を纏った岩をイムに目掛けて落とした。


「鬱陶しい」


イムは伸ばした片腕を鞭のように振って、空中で岩を砕いた。


「空間ロック」


「おっ」


ソフィはイムが腕を振っている間にイムの周りの空間を固定した。そして、ソフィは動けないイムを他所に魔法の準備を始めた。


「っ!」


「さっき吹っ飛ばしてくれてどうもありがとう」


地中から青黒い顔よりも2、3周りほど大きい塊がソフィの足元から飛び出してきた。ソフィはそれを頬に掠りながらも避けれた。


「それを優先したんだ」


しかし、慌てて避けたことにより、イムを固定していた魔法が解除された。それにより、飛び出してきた青黒い塊はイムに戻った。



「フリーズ」


イムの固定を解除してまで準備し続けた魔法がイムの元に転移して発動された。


「えぐいな……」


ソフィの魔法によってイムを中心として周囲数十mが黒い氷の世界になった。ちなみに、中心地にいるイムは巨大な氷塊に顔だけ出した状態で埋まっている。


「僕の身体を凍らせるほどの威力を出せるとは思ってなかったよ。ソフィアを舐めていたことは反省しないとな」


イムは氷塊に顔だけ出した状態でそう言った。


「…でも、許容範囲内だね」


イムは氷塊から顔を落とした。そして、落ちた顔から元通りの姿に戻った。…お前の体はどういう構造をしてるんだよ…。


「僕やリュウレベルになると、ソフィアみたいに複数の芸に特化しているよりも、ダーリンの雷や反射神経のようにある分野にだけ特化している方が驚異的なんだよね。現に僕も特化型だし…ね!」


「うぐっ…」


イムが拳を前に振ると、ソフィの横から転移して拳が現れた。ソフィはそれを腕でガードした。


「ダーリンの目もあるし、僕も真面目に戦うことにするよ」


イムはそう言うと、ソフィに向かって一直線に走り出した。


「ふっ!」


「効かないよ」


ソフィが近寄らせないように放った無詠唱の魔法は全てイムを貫通しているが、効果が無いように見える。


「ソフィアは接近戦は凄く弱いよね」


「くっ…」


近寄ってきたイムはソフィを蹴った。それをソフィはメイスで何とかガードした。


「ほらほらほらっ!」


「くっ…!」


ソフィはイムの攻撃を何とかメイスと魔法を駆使して防いでいた。イムは攻撃を時々転移させていることで、より対処を難しくしている。



(うーん…)


俺はその様子を見ながら首を傾げた。

俺が考えているのはイムが魔法をすり抜けれるというのはあるが、あんなに簡単に近寄れるのか?ということだ。それと、近寄ったところであそこまで有利に戦えるかということだ。ソフィは俺対策のことを多く考えている。その中に近寄らせないための対策、近寄られた時のための対策は必須事項だろう。

もちろん、俺の対策がイムにも通じるとは限らないけどね。



「反射」


「それも無駄」


最初にイムをバラバラにした反射もイムの動きを少し止めるだけしか効果が無い。



(あれ?)


そこで俺は少し気になることがあった。そういえば、悪魔憑き中は悪魔の能力を自動発動できる。それは魔法転移でソフィも実際にやっている。それなのに、反射だけは毎回口に出している。


「あっ…」


「これで終わりだね」


ソフィのメイスが上に弾かれて、ソフィが両手を上にあげた。胴体が無防備になった。そして、イムはそこに目掛けて拳を振った。


「ええ。終わりですね」


「わっ…!」


ソフィの言葉と共にイムは空中に吹っ飛んだ。そして、空中で花火のように弾け飛んだ。その破片は俺の場所までやってきたので、空中で避けておいた。

ソフィは魔法の準備をしながら四方八方に降り注ぐイムの破片と入れ替わるように空中にやってきた。


ブチュッ!


その音と共に地上に集まったイムの破片達が潰れてもう一度弾けた。もう1個の破片の大きさがゴルフボールくらいしかないぞ…。


「シャインインフェルノ」


そして、ソフィは白い炎をイムの破片がある広範囲に空中から地上に転移させて放った。その炎はイムの破片だけを1つ残して燃やし尽くした。



「いくら私が近接戦が苦手だとしても、お兄ちゃん以下の近接戦闘能力で私に挑むことが間違いです」


ソフィは残った1つの小さな破片に向かってそう言い放った。


「模擬戦終了。勝者ソフィ」


俺も地上に降りながらそう宣言した。周りに感知できるイムの魔力はこれしかない。つまり、これを燃やされたらイムが死んでしまう。

どうせ、イムのことだから、この場所以外にも破片はありそうだからこれを燃やしても生きていそうだ。

ただ、この模擬戦としては小さな破片1つになってしまったイムの負けだろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る