第419話 結論
「話したいことは話し終えたけど、僕の協力はいるかな?」
「…明日またここに来てくれないか?その時に結論を話すぜ」
「分かったよー」
イムはそう言うと、腕を上げて身体を伸ばした。
「この部屋にまたこの面子が揃った時にダーリンの横に現れるからよろしくね〜。罠とかが無いことを祈ってるよ」
イムは最後にそう言うと、魔力を纏って転移で姿を消した。
「あー、疲れたぜ!」
イムが居なくなり、緊張が解けたのか、ベクアは腕を広げて寝転がった。
「シャナ、イムの心は読めたか?」
「読めたよ。ソフィアみたいだった」
俺もベクアほどでは無いが、楽な体勢になりながらシャナにイムに心眼が使えたかを聞いてみた。
「ソフィみたいって?」
「思考がごちゃごちゃしてて読みにくかった。さらに、その思考の大部分がゼロスの事だった」
ソフィみたいってそういうことか…。もしかすると、ソフィとイムが相性が悪いのは同族嫌悪の節もあるのかもしれない。
「ただ、言っていることに嘘はなかった。…気持ち悪いくらいに」
どうやら、イムの言っていることは合っていたようだ。ただ、シャナが最後に付け足した言葉が気になった。
「気持ち悪いくらいにってどういうこと?」
「口に出している言葉と心で考えている言葉が一言一句同じだった。こんな人間を私は見たことがない」
普通は心、つまり頭で考えてから言葉にする。その時に必ず多少は言葉が変化するそうだ。こう言った方が伝わる、こう言い替えた方が角が立たないとかで。しかし、イムにはそれが全くなかったそうだ。
「イムは何らかの形で私の眼の対策をしてたと考えていい」
「つまり、どこかで嘘を言っていたと」
「そう」
心眼の対策をするということは、最初からどこかで嘘をつくつもりだったということになる。
「問題はどこが嘘だったのかだが…」
「嘘はイムのメリットのところです」
「嘘はイムのメリットのとこよ」
俺の独り言にソフィとエリーラが同時に返答した。
ソフィとエリーラはお互いに見つめあったが、ソフィがどうぞっとエリーラに言ったことにより、エリーラが話し始めた。
「イムのあの最初の説明では必ずイム側のメリットを聞かれることは確実だわ。それはイムも言っていたわね。確実に嘘をつくと考えるならあそこが嘘だわ。実際、メリットの内容は納得できるようなものでは無いわ」
エリーラの話が終わってソフィを見たが、ソフィは頷いていた。エリーラと同意見なのだろう。
「イムは本当のメリットさえバレなければ、メリットが嘘だとバレても問題ないと考えたのでしょう」
「なるほどね」
確かにほぼ嘘だと分かった現在でもイムの本当のメリットが何か分かっていない。
「ゼロスの意見が欲しい。ゼロスはこの話を聞いた上でイムの提案に乗るかどうか。プレッシャーをかけてしまうが、今回の判断にゼロスの意見はかなり参考にさせてもらう」
「俺は……」
多重思考を使いながら自分の意見をまとめてみんなに伝えた。
「これで決まりだな」
全員の意見を夕食の時間を大幅に過ぎている中、まとめあげた。
最終的に俺の判断した結論になった。後は明日、イムにそれを伝えるだけだ。
「ダーリン!あっ!避けた!」
次の日に俺の真後ろに現れて抱きつこうとかしてきたイムを躱した。
「その反射神経やっぱり凄いね」
イムはそう言いながら俺の横にちょこんっと座った。敵地だというのにかなり余裕だな。
「それで、僕の力を借りるの?」
イムがそう問いかけてくると、この場の全員が俺の方を向いた。獣人国での問題でもあるので、王子であるベクアが言うべきだと思ったが、このグループのリーダーは俺なので、俺が言うべきだとベクアに言われてしまった。
「イムの力を貸してくれ」
「ダーリンならそう答えてくれると思ったよ!」
俺はイムの力を借りるべきだと思った。正直、イムのことは信用も信頼できない。ただ、その強さについてはよく分かっている。本当の目的はどうであれ、味方になるのなら心強くはある。
「ただ、少しでも敵対行動を取った時点でリヴァイアサンを放置してイムに攻撃をするからな」
「それで全然いいよっ」
イムは今の忠告を全く聞いていないのではないかというほど上機嫌だ。
「じゃあダーリン行こっか!」
「は?どこに?」
イムは俺の腕を掴んで立ち上がった。一体どこに行こうとでもいうのか?
「街の外。今のダーリンじゃあリヴァイアサンを確実に仕留めるにはちょっと不安が残るから私が鍛えてあげるよ」
「あなたはそんな勝手が認められる立場だと思ってるのですか?」
俺がイムの発言に突っ込む前にソフィが突っかかった。
「はあ…自分がどれだけ強いと思ってるのか知らないけど、喧嘩売っていい相手かどうかはちゃんと考えた方がいいよ。早死するよ」
「忠告ありがとうございます。リュウという強い魔族には喧嘩を売らないようにします。ただ、呼吸が要らないおかげでリヴァイアサンと水中でも戦う事ができた程度の魔族に対しては気を付かなくても良いでしょうね」
イムが今のソフィの発言で何かのスイッチが入ったのだろうか、雰囲気が変わった。イムは掴んでいた俺の腕を離して、ソフィに1歩近付いた。
「お前はそんなに僕にぶっ飛ばされたいのか?それなら素直にそう言えよ」
「それは遠回しに自分をぶっ飛ばしてほしいと言いたいのですか?そんな回りくどい言い方しなくても、ぶっ飛ばしてくださいってお願いしてくれたらやってあげますよ」
2人はいつ戦闘が始まってもおかしくないほど険悪な雰囲気になっていた。シャナとエリーラは呆れたように2人を見ていて、キャリナはあわあわと慌てている。そして、ベクアは俺の方を見て、どうにかしろよと言いたげな目線を送っていた。
「はあ…ベクア、近場で本気で暴れても大丈夫なところを教えてくれ」
「わかったぞ」
俺はベクアに暴れても周りに影響が出ないところを聞いた。
『ユグ、行けるか?』
『ちょっと遠いから大変かも』
『頼む』
『はーいよ』
俺はユグとの精霊魔法を準備し始めた。その事にソフィとイムも気が付いたのか、睨み合いをやめてこちらをじっと見た。
「ベクア、少し行ってくる」
「おう。怪我はするなよ」
「言う相手が間違ってると思うが…気を付けるよ」
ベクアの今の言い方はもう俺がどうする気なのかは既にわかっているのだろうな。
「転移」
俺はソフィとイムを連れて、ベクアに教えてもらった暴れても大丈夫な場所に転移した。
「さて…俺が審判をやるから2人で模擬戦をしろ。あくまで模擬戦だ。お互いに殺すほどの威力のある攻撃は認めない」
2人がこのまま険悪だとリヴァイアサンと戦う時に絶対に影響が出る。だから1度こうして戦わせておいた方がいいと考えた。もしもイムがソフィを殺そうとした時や、ソフィがイムを殺そうとした時は全力で止めにはいる。
2人は少しキョロキョロとして周りに人が居ないかを確認した。
「殺しは無しで力の差を見せつければいいのね。分かったよー」
「分かりました」
2人はそう言うと、お互いに臨戦態勢になった。
いや、2人とも状況判断早いな…。
「ソフィ対イムの模擬戦始め!」
「反射」
模擬戦が始まった瞬間にソフィは反射でイムの体を吹っ飛ばした。バラバラに…。
「ソフィ!」
「仮にもスライムですよ?この程度で死にませんよ。死んでくれた方が有難いとは思いますが」
「………ダーリンのために殺しはしないであげる。でも、そっちがその気なら半殺しにはしてやるよ」
ソフィの言う通り、イムは散らばった破片を集めてすぐに元通りになった。
模擬戦をさせればいいって考えはちょっと安易だったかもしれないな……。
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