第418話 メリット

「魔族であるお前は私達の敵です。私がどうとか関係なく、敵が近くにいるのに許可が出るわけがありません」


「敵なら誰かが傍で見張ってれた方がいいんじゃないの?」


「それがお兄ちゃんである必要性がないです」


「この場で手段を選ばないとしたら、1番強いのはダーリンだよ。1番強い者が見張るのが1番いいでしょ」


「2人とも少し聞いてくれ」


2人が言い合う一触即発の雰囲気をどうにかするためか、ベクアは2人の話に割って入った。


「…ゼロスに触れないで、常にゼロスの3m以内かつ、ソフィアの視界に入る場所で魔力を一切使わないのなら許可しよう」


ベクアは折衷案のような条件の元でならイムの行動を許可すると言ってきた。


「触れないを30秒以上に触れないに変更して、それからダーリンが僕を避けないっていう条件を追加するなら全然いいよ。ダーリンの反射神経で本気で避けられ続けたら、魔力無しなら僕でも触れるの難しいからね。」


「…分かった。その条件でいいだろう。

ソフィア、ゼロス。イムが魔力を使う素振りをした瞬間に街中であろうと戦闘を許可する」


「分かりました」


「…分かった」


「わぁー怖い」


何か俺の苦労がかなり増えた気がするのだが…。ベクアも俺の意見を一切聞かないで話を終わらせたな…。ベクアを軽く睨むとすまんといった表情で軽く頭を下げた。



「あっ!避けた!契約違反!」


「ちっ…」


なんてベクアとアイコンタクトを取っていると、イムが俺の腕を抱き締めようとしてきた。俺はつい反射的に避けてしまった。契約違反と言われたので、次は避けなかった。



「えへへっ」


「……」


イムは俺の腕を抱き締めながら上目遣いでこちらを見て微笑んできた。イムは短髪でボーイッシュのため、パッと見では男か女か分からない。しかし、こうして至近距離で見ると可愛らしくて女の子というのがよく分かる。


(とは言ってもこの状況は喜べないけどな…)


イムにじゃれつかれているのは、前世で言うと、ライオンなどの肉食獣にじゃれつかれている状況に近い気がする。

油断してしまうと、いつ殺されてもおかしい無い。


(いや、ライオンの方がマシだな…)


ライオンはまだ甘えるなどの思考があってじゃれてくるが、イムは何を考えているかが分からない。相手が好意的だと分かる肉食獣の方が全然安心できる気がする。


「はいっ!ちゃんと30秒以内に離れたよ」


イムはちゃんとベクアの言う通りに30秒以内に離れた。こいつがなぜ素直にベクアの言うことを聞いているかも分からないんだよな…。もっと無理を言える立場のはずなのに。



「…私からも質問します」


「いいよ」


依然として睨んでいるソフィがイムに質問をした。


「あなたはリヴァイアサンの討伐を手伝って何のメリットがあるのですか?」


「その質問は来ると思ってたよ」


イムはさっきまでのおふざけの感じを無くして真面目にそう言った。さらに、真面目な感じのまま続きを話した。


「僕が強くなるためだよ。簡単に言うとレベルを少しでもあげたいのさ。とは言っても僕は暇じゃないからね。高ランクの魔物を倒したいのさ。さすがにあのリヴァイアサン5匹を同時に相手するのは大変だったから、ダーリン達にも手伝ってもらおうとしてるってこと」


暇じゃないのに、2週間近くここに滞在するのはいいのだろうか?という気になる点は合ったが、今はそれよりも気になることがあった。



「その言い方だと、リヴァイアサン達と戦ったって聞こえるぞ?」


「ん?僕はダーリンが居なくなった後に海の中でリヴァイアサン達と戦ったよ。僕のことはダーリンみたいに執着してくれなくて、あいつらはすぐに逃げようとするんだよ。いざやる気にさせても、やっぱり5対1じゃ分が悪かったよ。だからダーリン達に手伝って欲しいんだよ」


空いた口が塞がらなかった。正直、転移という逃げる手段があろうと、海の中であいつらを1人で相手をするなんてしたくない。いや、できないと言った方がいい。そんなことをしたら、一方的にフルボッコにされるだけだ。それはソフィやシャナやエリーラでも同じことだろう。



「確かにダーリンと殺り合ったリューちゃんと比べたら印象にないかもしれないけど、僕は魔族の中でもトップクラスに…強いんだよ」


イムは俺達の驚いた反応が気に食わなかったのか、

最後の「強いんだよ」は凄みをきかせながらそう言ってきた。そのプレッシャーはリュウに引けを取らないだろう。俺達はリュウと同様にイムも魔王の中の1人だと分からされた。



「まだ質問ある人いる〜?」


さっきのプレッシャーは何だったんだというくらい陽気にイムは次の質問を聞いた。

そして、プレッシャーに気圧されたのもあってか、新しい質問は出なかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る