第413話 威力特化
「ベクア様とキャリナ様を連れて私達はこの場を去りましょう」
「俺もこの場に残るぞ」
ソフィが下げた頭を上げたタイミングでウカクが話し始めた。その内容にベクアは食ってかかった。
「では、ベクア様にこの三方のように雷を防ぐ手段はあるのですか?」
「………」
ベクアにその手段は無かった。いや、あるにはある。自身の周りを氷と雪で完全に囲んでしまえばいいのだ。しかし、そうしてしまうとベクアは攻撃ができなくなる。
「……俺は漁港に戻ろう。ただ、ゼロス!もし何かあったら漁港までこいつを誘き寄せろ。その時は俺が殴り倒してやる」
「ああ。分かった」
ベクアは悔しそうな表情でそう言った。ベクアの言う通り、俺達でもどうしようもないと判断した時は漁港まで誘き寄せよう。
ウカクは方針が決まったので、すぐに船長の元へ向かった。
「キャリナ、これを眼で奪って」
「分かりました」
俺はキャリナに火魔法と光魔法で即興で作った派手な花火みたいな複合魔法を奪わせた。キャリナには全ての船が海から撤退したら打ち上げてもらう予定だ。
「船を出す準備ができたぞ!」
「分かりました」
ウカクとの話し合いが終わり次第、慌ただしく動き出した船員達によって船はいつでも漁港に向けて出発できるようになったようだ。
「ソフィ、シャナ、エリーラ。行くぞ」
「分かりました」
「ん」
「わかったわ」
俺達はそれを聞くと、船から飛び降りた。と言っても、俺はダーキの足場に立っているし、ソフィは宙に浮かんでいる。また、シャナは海水に掴まれて持ち上げられている。
「エリーラ…それはどういう原理?」
「知らないわよ。できてるんだからいいでしょ」
エリーラに至っては普通に海の上に立っていた。ソフィをちらっと見たが首を横に振って、私でもできないと表現していた。
「もう一度確認しておくけど、合図が来るまでは絶対に高威力の攻撃は禁止。回避に専念すること」
俺がそう言うと、全員が頷いた。恐らく、急に全ての船を海から離れさせようとするので、それなりに時間がかかってしまうだろう。それまでにこの影が攻撃を仕掛けてくるかもしれない。だが、キャリナの合図があるまでは遠慮して戦わなければならない。
「合図よ」
そんな俺らの心配を他所に、海面の影はゆっくり移動を続けるだけで攻撃はして来なかった。そして、1時間ほど待機していると、キャリナの合図が打ち上げられた。それと同時に俺の火魔法と光魔法が帰ってきた。
「お兄ちゃん、特大なのお願い」
「任せろ。ソフィもお願いね」
「任せて」
もうシャナを掴んでいる水も純水にしているので俺の攻撃の巻き添えを食う心配はない。
「精霊ジール降臨、精霊ユグ降臨」
そして、俺は雷の準備を始めた。今回、挑戦しているのは雷電魔法とジールの雷とユグの雷の3つを合わせた魔法だ。さすがにこれらを合わせるのには集中しなければならない。そのため、今の俺の防御は横にいるソフィに任せているのだ。
「…みんなちょっと着いてきて」
俺は魔法に集中しながらそう言った。もうすぐ完成する魔法は俺の予想よりも遥かに高威力のものになりそうだ。だから念の為みんなを遠くに離れさせる必要があった。
「ここで待ってて」
俺に着いてきて離れた影からかなり離れた3人にそう言って、俺は影の真上まで移動した。恥ずかしい話、威力に特化させ過ぎてコントロールがあまり定まらない。だから俺を避雷針にして影に当てる予定だ。
「できた」
『ピコーン!』
魔法が完成すると同時に俺は新しい称号を獲得した。まだ魔法名が無かったので、その称号の名を魔法名にしよう。
「
天からさっき乗っていた船以上の雷の巨大な球がゆっくりと落ちてきた。
「はっ!」
俺がそう言って握り拳を振り下ろすと、それは俺を通り越して勢いよく海中の影に向かって海を貫く勢いで落ちて行った。
「ギチィア!!!」
何かが雷に触れたのか騒ぎ始めた。そこで俺は握っていた手を開いて雷の球の圧縮を解いた。すると、激しい雷鳴と共に雷の球は爆裂した。
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