第409話 勝負結果

「釣りはラスト1時間になったぞ!」


「「ゲームスタート!」」


俺とベクアは船長がラスト1時間になったのを伝えると、口を揃えてそう言った。


「よっ!」


俺とベクアはお互いの途中結果が分かるように隣同士で釣りをしている。それはこの勝負が始まる1時間前からそうだ。その1時間でベクアが釣りあげた魚と俺の釣りあげた魚を比べると、平均的にも、最大値的にも俺の方が一回りも二回り勝っていた。



「ベクア、何してんだ?」


「気にするな」


ベクアは餌の肉を少し削って半分ほどに小さくしていた。俺がそれを指摘してもニヤニヤと笑うだけで何も教えてくれなかった。だから気にせず自分の釣りに集中することにした。




「ベクア、大丈夫なのか?」


もう勝負が始まって30分弱程が経過しただろう。俺は既に数匹の魚を釣っている。その中には俺が釣り上げた中で今日一番ではないかと思うほど多い魚もいた。

俺も自分の釣りに集中しているため、横目で見ているだけだが、まだベクアは1匹も釣り上げていない。



「大丈夫だぜ。気にするなよ」


「…ん?」


俺にもだいぶ余裕があったので、ベクアの方をちゃんと見たが、糸がピンッと張ってある。


「それは釣れてないか?」


「いや、これはまだ釣れてないんだな」


ベクアは否定するが、どう見ても魚がかかっているだろう。それなのに、ベクアは竿を左右に大きく振っているだけで、釣り上げようとしない。


「おっ…!!」


そんなベクアをじっと見ていたが、ベクアの竿が一気にぐんっ!と勢いよく引っ張られた。あまりの勢いにベクアが数歩前に出たほどだ。


「きたきたきたきた!」


ベクアはそう叫びながら竿を引き始めた。


「おぉぉぉ!」


ベクアは雄叫びを出しながら竿を振ると、海面から魚が飛んできた。


「氷雪纏!」


そして、上から落ちてきた魚を腕から出した鋭い棘で突き刺した。


「ふっ…!」


ベクアは釣り上げた魚を手に俺の方を向いて、挑発するように鼻で笑った。

今のベクアが釣り上げた魚は俺が釣り上げた最大の大きさの魚と比べても二回りは大きいだろう。



「おっ…」


やられた…と思っていると、俺の竿も引っ張られた。このままでは魚がありつけ無くなるので、俺はベクアと同じく、このままこの魚を釣り上げないことにした。

ベクアがやっていたことは泳がせ釣りだろう。釣った魚をそのまま泳がせて、それを新しいより大きな魚が食いつくのを待っていたのだ。

1度釣り上げてから再び針をつけて海に投げなかったのは、俺に気付かれないためと、危険があったためだろう。1度釣った後に殺さないで放置すると、船員に危険が及んでしまうからな。




「くそ…」


俺も泳がせ釣りを始めてから20分以上が経過した。

泳がせ釣りに慣れているであろうベクアですら、釣り上げるのに30分かかったのだ。釣り職人の称号があるとはいえ、俺に釣れるだろうか?



「ゼロス、いい事を教えてやるよ」


「んあ?」


残り5分を切った時に余裕そうにしているベクアが話しかけてきた。ちなみに、ベクアは1匹釣り上げてからは高みの見物をしていて、もう竿を投げていない。


「今のお前が泳がせている魚に食らいつく魚は糸が届くくらいの場所にはいないぞ」


「え…?」


この海では深く行くほど大きく凶暴な魔物が居る傾向があるそうなのだ。安全のためにそこまで巨大で凶暴な魔物はかからないように、深くまで届かない糸の長さになっているようだ。

ちなみに、ベクアが釣り上げたのは糸が届く範囲にいるサイズの中で、1番大きく育ったくらいのサイズらしい。そいつらが食べるような魚がかかるように最初に肉を削っていたそうだ。



「…んおっ!!」


なんてベクアと話していると、当然竿が一気に引っ張られた。油断していたのか、船の柵を掴かむまで俺自体も引っ張られた。


「お兄ちゃん!」


「問題ない!」


ソフィが海に落ちるのではと心配してくるほど俺は引っ張られたようだ。油断しないで釣り上げようとしたが、竿がほとんど動かない。どうやら、油断関係なくこの魚の力が強いのだろう。


「獣化!」


このまま時間をかけていいのなら、このまま釣り上げられるだろう。しかし、もう制限時間までは3分程しかないと思われる。だから早く釣り上げるために獣化をした。


「らあっ!」


俺は全力で竿を引っ張った。その瞬間に竿からべキッ!という嫌な音が鳴った。

慌てて音の発生源を見ると、竿がボキッと折れた。


「止まれ!」


海に折れた先端が吸い込まれようとしているのを見て慌ててダーキのサイコキネシスでそれを止めた。そして、海に落ちかけている竿の先端を握った。


「釣れろぉ!」


先端を左手で持ち、右手で糸を掴んで背負い投げのように糸を引っ張った。すると、海面から巨大な魚が俺に向かって飛び出してきた。


「俺の勝ちだ!」


俺はベクアの方を見ながらそう言って、正面からやってきた魔物を避けて、その大きな口にサンダーボールを食わせた。

ベクアの釣りあげた魚の倍近くあり、サイズ的には俺が4から5人分くらいにもある。



「釣りの時間は終わりだ!竿を引き上げろ!」


ベクアは軽く放心していると、ゲームの終わりを告げる釣りの終了を船長が宣言した。




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