第410話 海の層
『ピコーン!』
『【称号】ヌシ釣り を獲得しました』
「おっ」
魚が死んだのか、釣り上げたと認められて新しい称号を獲得した。やはり、普段と違うことをすると、一気に称号が増えるな。今日だけで3つ目だ。
「おお!すげぇの釣り上げやがったな!」
俺が釣り上げた魚を見て仰天したのか、固まっていた船員達が船長の釣りの終わりを告げる声で正気を取り戻した。そして、その魚を囲み始めた。
「船長!これは中層の魚ですよね!?」
「見ればわかるだろ。こんな魚は普段見ないだろーが。これは平均よりは小さめだが、確実に中層の魚だ」
「中層?」
中層という聞き慣れない言葉が聞こえてきた。
「中層はこの海の深さを表す言葉っすよ。さっきから釣り上げていたのは上層の魚っすね。そして、今釣り上げたこいつはそこから一個下の中層っていうところの魚ってわけっす」
詳しく聞くと、この海には大体で決めた4つの層があるそうだ。D〜Cランクが居る上層、B〜Aランクが居る中層、S〜SSランクが居るとされている下層、SSSランクが居るとされている深層の4つだ。とは言っても、下層以下の層は調べる方法がないため、居るかもしれないというだけで迷信に近いそうだ。
つまり、ウルザが調査するのは下層以下の魔物が上層か中層にやってきていないかということか。
そして、俺か釣ったのはヌシでも何でもないということだ。【称号】収集様々だね。
「中層の魔物は今みたいに普通は竿が折られるから釣り上げるのは難しくて、俺らでさえなかなかお目にかかれないんすよ」
「なるほど…」
今以上に竿の強度を高めると、しなりが無くなってしまい、遠くに餌が飛ばなくなってしまうそうだ。だからどんなに強い者でも釣り上げれるのは上層までなんだそうだ。
「魚の魔物はランクが上がるほど上手いからな…これはどれくらい美味いんだろうな……」
「ゲストが釣ったものはゲストが持ち帰っていいことになってんだからお前には当たるわけが無いぞ」
なんて会話が俺の釣った魚を取り囲んで居る船員たちから聞こえてきた。副船長曰く、これはまだ生まれたばかりだからか小さめのサイズだが、Sランクの魔物なんだそうだ。
「…ベクアは中層の魚を食べたことはあるか?」
「いや、俺でも無いぜ…」
ベクアに念の為聞いてみたが、ベクアですら食べたことがないそうだ。つまり、相当レアなんだろう。
「だから…」
「あんたら!いつまで囲んでんだい!釣りが終わったんだから早く船の準備をしな!」
「「「へ、へいっ!」」」
ベクアが何か言おうとしたようだが、タイミングで運悪く、船長の言葉と被ってしまった。船員達は慌ただしく帆を張ったりと船を動かくための準備を始めた。
「持ち帰るのはこれ1匹でいいかな?」
俺は何か言いたそうなベクアを無視してみんなに問いかけた。この問いにみんなは了承した。この1匹ですらかなりのサイズがあるので、他の魚は要らないだろう。ただ、自分が釣った魚を食べたいという思いがあるかもしれないから一応聞いてみた。
「なら俺のマジックリングに入れておくね」
俺はこの魚をマジックリングの中に入れた。この時間停止機能があるマジックリングに入れておけば、鮮度を落とさずに済む。
なんて会話をしていると、船は漁港に向かって進み出した。まだ昼過ぎなので、漁港に着く頃にはまだ夕方前だろう。これなら帰ってすぐに旅館の人に魚を渡せば今日の夕食にこの魚の料理が並ぶだろう。
「着いたぜ!」
予想通り、夕方になる前に船は漁港に到着した。
「今日はありがとう」
「それはこちらこそだ。今日は良いもんが見れたぜ。補助もしなくて済んで楽だったと船員も言っていたぞ。また釣りがしたくなったら言ってくれ」
船を降りる時に船長に礼を言って船から降りた。異世界の釣りもなんだかんだ楽しかったな。あ、そういえば、巨大な影は全く見えなかったな。
「では、竜車を取ってきます」
ウルザはそう言い残して竜車を取りに向かった。そして、ウルザの操る竜車に乗って俺達は旅館に帰った。
「今日釣りあげた魚を夕食に出してもらいたいんだけど、できるかな?」
旅館に帰って出迎えの人に確認をしてみた。
「大丈夫でございます」
どうやら、ベクアかウルザあたりが前もって魚を持ち込むと言っていたようだ。
「どこに出せばいい?」
「こちらまでお願いします」
魚を持っている俺が代表として厨房に魚を渡しに向かった。
「ここにお願いします」
「分かった」
そして、指定された場所に魚を出した。すると、料理人と思われる者達からおおっ!という声が盛れた。
「これはもしかして、少し小さめですが、中層にいるSランクではありませんか?」
「はい」
そう答えると、料理人の目が輝き始めた。見ただけでSランクの魔物とわかるのはさすがだ。
「本日は希少部位を使ったものをご用意致しましょう!」
あ、そうか。船員でも珍しいのだがら、料理人達からしても中層の魚は珍しいのか。だからこんなにもやる気に満ち溢れているのだろう。料理人達はすぐにどう調理するかなどの相談を始めた。俺は邪魔になりそうなので、すぐに部屋に向かった。
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