第408話 勝負
「よっ!」
俺はソフィ、キャリナ、エリーラの3人がまじまじと見ているので、少し緊張しながら竿を投げた。
「…およっ」
餌が海に落ちてから数瞬で竿が引っ張られた。油断していなければ竿を離すことも、海に落ちることはないくらいの引きだ。
「ほっ!」
俺は剣を抜くことなく、両手で竿を引っ張った。すると、副船長が釣ったよりも一回りくらい小さい魚が水面から上がってきた。
「あ、やべ」
感覚が分からず、強く引き過ぎていたようで、魚が船の反対側から再び海に戻りそうな勢いだ。慌てて俺の上付近に落ちるように糸を引いて調整した。
「ばん」
調整が終わると、魚はかなり俺に近ずいていたが、気にせずに左手の親指と人差し指をピンッと伸ばて銃のような形を作った。そして、人差し指から小さなサンダーボールを放った。
落ちた来た魚を避けると、船の上で少しビクビクッと動いた後に動かなくなった。
『ピコーン!』
『【称号】釣り職人 を獲得しました』
「いや〜、初っ端から俺ら本職よりも上手くやられるとは参っちまうよ」
「まだまだ本職の方々には負けますよ」
称号にも釣り職人と言われているが、本当にまだまだだと思っている。俺は魔法が得意だから傷を付けない殺し方が上手いだけだ。釣りの技術に限ってはど素人だ。現に、今も釣り上げた時に力加減に失敗したくらいだ。
「3人もやってみなよ」
俺は魚が本当に死んでいるのかの確認と、針から魚を外してもらっている間に3人にもやってみることを勧めた。まだこれが釣りだとは思えないが、普通に面白かった。俺の見て魔法での倒し方も分かったはずなので、できるだろう。3人は餌をつけてもらった竿を海に投げ始めた。
そして、俺はその間にさっきの称号の効果を確認した。
「うーん…」
効果は名の通り釣りに関することだけだった。具体的には、よりかかりやすくなるのと、大物がかかりやすくなることだった。まあ、釣りには役立ちそうなので、釣りの時限定でセットすることにした。
「ベクア、調子はどうだ?」
「最高だぜ!」
今はポイントを移動中かつ昼休憩だ。さっきの場所で釣りをし続けていると、だんだん釣れなくなってきた。魚の魔物が周りに少なくと船長が判断すると、一旦釣りをやめさせてすぐに船を移動させた。
「ゼロスも釣りには慣れてきたか?」
「だいぶ慣れたかな」
釣りにはかなり慣れてきた。魚を針から自分で外せるようにもなった。
「なら勝負しないか?」
「勝負?」
ベクアはニヤッと笑いながら俺に提案をしてきた。
「勝負の内容はどっちの方が大きい獲物を釣り上げるかだ」
「面白いね」
数ではなくて大きさというのが面白いと思った。まだ釣り初めての俺は餌を付け替えたりするのがベクアよりも遅い。だから数での勝負では無いのが良かった。
「どうせなら罰ゲームがあった方が盛り上がるよな?」
「内容はどうする?」
確かに罰ゲームがあった方がより面白くなるとは思う。しかし、男同士で盛り上がる罰ゲームって何があるのだろうか?お金とかを賭けるのは現実的過ぎてあまりお遊び感が出なくて盛り上がらないだろうし。
「負けた方は今日の魚料理を勝った方に全て渡すってのはどうだ?」
「それでいこう」
今日釣りあげた魚の1部は貰えることになっている。それを旅館に渡して美味しい夕食を作ってもらう予定だ。負けた方はそれが無しになるのは普通に面白い。
「てめぇら、今日はあと2時間だからなー」
「後1時間になったらまた教えてくれ」
ちょうど賭けの対象が決まった時に次のポイントに着いた時に船長が残りの時間を言いに来た。その船長にベクアは残り1時間になったらまた教えて欲しいとお願いした。
「分かった。残り1時間になったらまた伝えに来てやる」
それに船長は了承した。
「勝負はラストの1時間でどちらが大きいのを釣るかでいいか?」
「問題ない」
制限時間はラストの1時間で決まった。
「大きさって具体的に重さでいいのか?」
「まあ、微妙な時はそうだな」
一応魚にも種類があるので、パッと見でどちらが大きいか分からない時もある。その時には重さで比べることに決まった。
「勝負を楽しみにしているよ」
「俺もだぜ」
ベクアは俺が釣り職人の称号を手に入れたことを知らない。つまり、これは俺の方がかなり有利なので、出来レースに近いとも言える。ベクアが夕飯に魚料理を味わえなくて悔しがる顔が楽しみだ。
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