第372話 vsリュウ 1
「…さすがにリュウは武器を持ってないか」
舞台へと上がってきたリュウは今までと同じく、ほとんど防具もないような軽装で、武器も持っていなかった。
「私の攻撃に耐えられる武器がない。それに、武器で殴るよりも普通に殴った方がダメージが大きい」
「なるほど」
確かにリュウ程の強さの者が好き勝手に振り回しても壊れない武器なんて、俺の闇翠や光翠のように特殊な物で作られているやつくらいだろう。
さらに、そこそこ良い武器を使うくらいなら、素手の方が強い攻撃ができるのだろう。
「獣化、雷電纏」
今日は最初から最大の9本で獣化した。さらに、ブロスの能力も最初から使っていくつもりだ。
『試合開始!』
「………」
試合が始まった瞬間にリュウから強いプレッシャーが放たれた。
「そうか。この程度では全く動じなくなったか」
そのプレッシャーを前にしても、俺は平常心を保てている。
「…まあーね」
リュウのプレッシャーに全く動じずにいられる理由は分かっている。昨日にこれとは比較にならないレベルのプレッシャーを味わっているからだ。あの呼吸すらもできないほどのプレッシャーと比べたら、リュウのはそよ風ほどに感じてしまう。
これを見越してわざとあの時にプレッシャーをかけていたとしたら、あの神は優しいが、なかなか性格が悪い。なぜなら、恐怖を上書きするために、更なる強い恐怖を与えたのだからな。
「雷縮!」
俺は雷縮でリュウに一気に近付いた。
「はあっ!」
そして、闇翠をリュウの首を目掛けて振った。
「…そりゃあ防具なんか要らないな」
俺の攻撃をリュウは腕を軽くあげてガードした。ガードした腕の部分だけ赤い鱗のようなものができている。この自己生産の鎧があるなら普通の鎧なんて要らないわけだ。
「今度は私がいくぞ」
リュウはそう言うと、拳を握って俺に殴りかかってきた。俺はそれを落ち着いて受け流した。
「面白い!」
俺が受け流したのを見て、リュウはそう言って拳のラッシュを行った。
俺はそれをただ受け流しながらリュウに隙ができるのを待った。
「ここだ!」
リュウの腕の下に入り込み、2本の剣で腹を斬り裂こうとした。
ギギギギキン!!
本当は斬りながらリュウの横から通り抜けるつもりだったが、リュウの鱗が予想よりもザラザラとしていたのか、激しい金属音のような音を響かせながらリュウが1mほど後ろに押されて下がっただけになってしまった。
「ほう…私を後ろに下がらせるか。デュラに勝っただけはあるな」
「ちっ…」
今の攻撃時もブロスの能力を使っていたのだが、発動した様子は特にない。つまり、今の攻撃で全くダメージは入っていないということだ。
「少し戦いのレベルを上げるぞ」
リュウはその縦長の瞳をさらに鋭くしながらそう言うと、人と同じようだった手足に鋭い爪と赤い鱗が現れた。それらが完了すると、リュウは何も言わずに猛スピードで俺の元までやってきた。
「うっ!?」
そして、俺へとパンチを放ってきたので、前と同じように剣で受け流そうとしたが、リュウは手を開いて俺の2本の剣をそれぞれの手でガシッと掴んだ。
俺はそのまま剣を動かして手の平を斬ろうとしたのだが、剣はビクとも動かない。
「雷縮!」
剣を掴まれたまま蹴りでもされたら避けれる自信が無い。俺はすぐに剣を手放して雷縮で移動した。
「なっ…」
雷縮で移動が終えた時にはすぐ後ろにリュウが居た。どうやら俺の行動を読んで先回りしたようだ。
「ふっ」
「ぅらっ!」
リュウは剣を捨てて来たようで、俺の手には剣が戻ってきていた。だから振り向きながら剣を危機高速感知が反応しているリュウのパンチ目掛けて振り抜いた。
「ぐぅっ…!……はっ!」
その結果、俺は簡単に押し負けて、吹っ飛ばされた。俺は場外まで行かないために急いでサイコキネシスで自分の動きを止めた。そして、その時には再びリュウは俺の後ろにいた。ただ、俺が急に勢いを止めたため、俺とリュウとの間にまだ距離がある。
「神雷ハーフ…エンチャント!!」
俺はリュウがやってくるまでの間に小声で前半部分を呟いた。そして、後半のエンチャントの部分を叫びながら、さっきと同じように剣を振り向きながら全力でリュウの拳に打ち付けた。
「……これでもまだ負けてるのかよ」
今回の結果は俺とリュウは2人とも後ろに下がっていた。しかし、リュウは1、2歩程度下がったのに対して、俺は5mは下がっていた。
だが、神雷ハーフエンチャントを行ったことで、力でも競り合えるレベルにはなった。
つまり、ここぞという場面で神雷エンチャントに変えたら競り勝てるということだ。
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