第332話 深夜の散歩

「………」


「………」


2人で夜の散歩に出かけたはいいが、何をどう話せばいいのかが分からない。何を話そうかは考えていたつもりだった。しかし、いざ話そうとすると言葉がでない。



「…私を心配してこのように気を使ってくれてありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」


「え…?」


散歩を始めて10分ほど経ったので、そろそろ何か言わなければと思っていた。そんなタイミングでソフィは急に立ち止まって、俺を見てニコッと微笑んでそう言った。



「私達は貴族家の兄妹で結婚できる条件を満たしています。しかし、その条件を満たしたところで実際に結婚する例はほぼありません。だから必然的にゼロ兄様の結婚相手の候補には身近に居る私以外の異性になります。そうなると、皆が1番に思い浮かべるのはシャイナでしょう」


貴族家限りではあるが、兄妹とかの血の繋がりがあっても結婚できる条件とは、髪と瞳の色がそれぞれ違うことだ。なぜ貴族限りなのかと言うと、俺のエンチャントのような家系の能力を確実に次の世代に引き継ぐための兄妹婚だからだ。そうは言っても、大体の場合は誰との子供でも、家系の能力は引き継がれる。ただ、もし誰にも引き継がれなかった場合に、確実引き継ぐために下のまだ嫁に出ていない条件を満たす娘が長男の側室になる時がある。



「まだ私もシャイナのことを愛称で呼んでいたらここまで周りから2人が結婚するのは確定的だと思われてはいなかったかもしれませんね。シャイナのことをシャナと愛称で呼ぶのは親族を抜きにするとゼロ兄様だけですから。もしかすると、シャイナはこうなるのを予知して早い段階からゼロ兄様にだけ愛称で呼ばせていたのかもしれませんね」


多分シャナが当時からそこまで考えていたということはないと思う。ただ、俺だけ愛称で呼んでいるのが勘違いの決定打となっているのかもしれないというのは否定できない。



「正直言いますと、ゼロ兄様がシャイナと結婚することを想像してもそこまで嫌ではなかったんですよね。その事に自分で混乱してパーティではあんなんになってしまいました。あの時は迷惑をかけてごめんなさい」


ソフィはそう言って軽く頭を下げた。



「多分、私はゼロ兄様が誰と結ばれようと、その結ばれた相手が私が認める条件に当てはまってたらいいんだと思います」


「条件?」


「条件は、打算抜きでゼロ兄様のことを好いている人、ゼロ兄様を守れるほど強い人、何よりもゼロ兄様の事を優先できる人がありますね。そしてこの3つよりも最重要なのが…」


ソフィはそこまで言うと、一旦言葉を止めて俺の方をじっと見た。それから続きを話し始めた。


「その人が居てもお兄ちゃんの横に私の居場所があることですね。あ、今から重い事を言いますね。引かないでくれたら嬉しいです」


ソフィはそう前置きをしてからさらに言葉を続けた。


「私はお兄ちゃんのために今世で生きています。そんな私がお兄ちゃんに見放されたら冗談抜きで死んでしまいます。生きる気力をなくして死ぬまでただぼーっとしてると思います。ですから死因は餓死とかでしょうかね。

そんな私だからエルフ達は心の底から嫌いだったのでしょう。エルフは打算大あり、お兄ちゃんを守れなかった、お兄ちゃんよりも同族であるエルフを優先した、お兄ちゃんがエルフ達の者になったら精霊と契約していないエルフではない私はお兄ちゃんのそばには居れない。条件に全く当てはまっていません。

その点で考えると、シャイナの気持ちは分かりませんが、何よりも重要な私の居場所があるのかという点は大丈夫そうなのでほとんど拒否反応などはなかったのでしょう」


俺はエルフ達が精霊王と契約しているからこんなに親切にしてくれるのは知っているし、あの魔族がエルフの里に襲来した時の様子などはソフィからあらかた聞いてはいる。


「とは言っても、私もお兄ちゃんのことを守れているか聞かれたら微妙ですけどね」


ソフィはそうつけ加えて自嘲気味に笑った。



「シャイナとお兄ちゃんの結婚を想像しても拒否反応が出なかったのはお兄ちゃんに対する私の気持ちが弱まったからでは?と自分で自分のことを心配しましたが、そうではありませんでした。

私の気持ちは変わりません。他の人がお兄ちゃんと結ばれることに少し寛大にはなりましたが、お兄ちゃんに私のことを好いてもらいたいのは未だ変わりません。これからもよろしくお願いしますねっ」


「……お願いされても俺にどうしろと?」


「私の魅力に気付いてくださいってことですよ」


ソフィはそう言うと歩き出した。


「ゼロ兄様!止まってたら散歩になりませんよ!」


そう言われて俺もソフィに着いていくために歩き出した。ソフィは俺がどうしようかと考えている間に自分で解決してしまったようだ。



「最後まで話を聞いてくれてありがとうございます」


「どういたしまして」


ソフィがぼそっとそう言ったのが聞こえた。

どうやら少しくらいはソフィの役に立つことができたようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る