第330話 挨拶回り

「えっと…今日の流れは…」


俺はサイズ調整してもらった衣装を着終わってから時間が余ったので、今日のパーティの流れの再確認を始めた。


「まず、俺とソフィ、ジャドソン兄様が挨拶回りを……」


主役のアンドレイ兄様と父様と母様がパーティに来る前に軽くだけ来てくださった人達に感謝を伝えるために挨拶をする。その挨拶もアンドレイ兄様の婚約者から、貴族としての位が高い順、その次に交流が深い順と順番も決まっている。それを間違えないようにしなければならない。

そういえば、アンドレイ兄様には婚約者ができていたそうだ。アンドレイ兄様が領主として落ち着いたらお相手はここに嫁ぎに来るそうだ。ちなみにそのお相手は辺境伯よりも位が一つ下の伯爵家の長女だそうだ。



「ゼロ兄様は気にし過ぎなくても大丈夫ですよ。何かあっても私が完璧にフォローしますよ」


「いや、ソフィに頼ってばっかに…も……」


衣装に着替え終わったので、1人だった部屋にソフィがやってきた。もちろん、ソフィがやって来ているのは魔力高速感知で気付いてはいた。だから普通にソフィの方に振り返って話そうとしたけど言葉が止まってしまった。



「まず、私に何か言うことはありませんか?」


「…似合ってるよ」


「それだけですか?」


「……綺麗だよ」


「ふふっ。ありがとうございますっ!」


ソフィのこのドレス姿は今初めて見た。ソフィのドレスは俺とは逆で白が主体で、スカート状のものは膝下までが伸びている。そして、膝下からは黒いニーハイ?タイツ?が見える。ドレスが白くシンプルなので、ソフィの綺麗なエメラルドグリーンの髪と眼がより綺麗に見える。思わず話すのを途中で止めてしまうくらいにソフィは美しかった。



「ゼロ兄様と衣装の色はお揃いになりませんでしたね」


「俺が白を選ぶと思ってたの?」


俺は普段から白の服なんてほとんど着ない。だって汚れがついたら目立ちそうだし…。だから俺は黒い服を好んで着ている。



「2人とも良く似合っているよ」


「ジャドソン兄様もよく似合ってますよ」


「そうかい?ありがとう」


ソフィと少し話していたら、今度はジャドソン兄様がやってきた。


「なんだか2人を見ていると、これから2人の結婚挨拶をするのかな?って気分になるよ」


「え?」


「ふふっ」


改めてソフィの衣装をよく見ると、どこか結婚のウエディングドレスに似たデザインな気もする。そんなウエディングドレスをまじまじ見る機会なんて無いからよく覚えてはいないんだけどさ。そもそもこの世界にウエディングドレスなんてあるのか?

あと、俺が黒くて飾り物が少ない一見すると新郎のようなシンプルな服を選ぶのを読んで、ソフィはウエディングドレスのような衣装を選んだのか?まさか…そんなわけないよな。



「そろそろ招待した方々は揃ったみたいだから行くよ」


「あ、はい」


「分かりました」


もう招待者はパーティ会場に揃ったそうなので、俺達3人はパーティ会場に入って挨拶回りを始めた。





「ゼロ兄様…頬が引きつって笑みが崩れてきましたよ」


「…ソフィもだいぶ酷いから気を付けた方がいいよ」


ソフィにそう小声で窘われてしまった。でも、多分だけどソフィの方が酷い顔をしていると思う。



「これが娘のレティーシャです」


「ゼロス様、ジャドソン様、ソフィア様、お招きありがとうございます。初めまして、私はレティーシャと申します」


言っても辺境伯家の領主を変えるだけなのに、わざわざ遠方からくる公爵家や侯爵家が多いなと思った。その理由はまだ婚約者のこの字も無い俺とソフィに息子や娘を紹介するためだ。一応ジャドソン兄様には候補者はもういるそうだ。わざわざ次男であるジャドソン兄様よりも先に三男の俺の名前から呼ぶ徹底ぶりだ。

俺とソフィは対校戦でもかなり活躍している。それも国王様直々に褒美を貰えるくらいに。とは言っても男の俺に対して上の位の貴族から大事な娘を紹介されるのは多分普通は有り得ないことだろう。



「お気に入りしましら、ぜひゼロス様の側室にでも…」


そして毎回俺に言われるのが、ぜひ側室にして欲しいという言葉だ。正妻にとは1回も言われていない。その理由は会話の中で何となくわかった。

それは俺の本妻はシャナだと思われているからだ。思われているいうよりも、そう想定しているという方が近い気がする。想定でしかないので、シャナの名前自体は1度も出てきてはいない。王族を本妻にする人となら娘を渡しても家に利益があると思われているのだろうか?シャナが本妻だと思われていることに気付いてた時のソフィの顔は…とても怖かった。


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