第319話 実力差

『ユグ、ジール、ちょっと聞いていい?』


『どうしたの?』


『なんだ?』


俺はシャナとキャリナが魔物達と戦って、それのサポートをしているソフィとエリーラを結界内でぼーっと見ながら俺の中にいる2人に話しかけた。

休みながらだとあっという間に夜がやってきた。そして、シャナは早く進化するぞ!と意気込みながら魔物達に向かっている。



『今の俺ならお互い魔力無しの条件があるとして、あのリュウに勝てると思う?』


俺は2人にそう尋ねた。ユグとジールは実際にリュウと遭遇した時に一緒に戦っていた。あの時の俺は何が起こっているかも分からずに負けた。多分、俺よりもユグとジールの方がリュウの力をわかっている気がする。


『それはだな…』


『ジール、私が言う』


ジールが悩みながら話そうとしたのをユグがそう言って止めた。


『あくまで私の推測でしかないから絶対正しいってことではないのを念頭に置いてね』


『ああ』


ユグはいつもの明るい感じではなく、真面目な感じでそう言った。


『その条件だと…その条件じゃなくてもゼロくんがあのリュウに勝つのは不可能に近いよ。あの神雷を使ったとしても』


『……そっか』


さっきのユグの忠告で何となく答えはわかっていた。


『まず、ゼロくんのスキルや技は見られてるから全てリュウにはバレてるよ。それに対して私達はリュウがどんな攻撃手段を持っているかさえ分かっていない。この差だけでもうかなり不利なの』


俺がわかっているリュウの情報といえば、イムと戦闘中だったと言えど、エルフの中でトップ3の強さのエミリーさん、ティヤさん、ジュディーさんを一瞬で気絶させるくらいの強さだということぐらいだろうか。

それなのに、俺には神雷という必殺技的なやつまであるのもリュウにはバレている。


『今のゼロくんでも、エミリー、ティヤ、ジュディーの誰かと1対1でなら勝つかな?負けるかな?ってレベルだよ。これで何となく勝てないってのはわかったかな?』


『ああ…』


ユグの話を聞くと、勝てるわけが無いって思ってしまう。ベクアに大会に参加するって安請け合いしたのは間違いだったかな。



『でも、これはあくまで殺し合いを想定した話だよ?』


『え?』


ユグはいつもの明るいトーンでそう言った。


『でも大会では殺したらいけないんだよね?』


『ああ、そうだったはず』


キャリナに大会がどんな感じか軽く聞いたが、対校戦のような結界なんかはなく、故意に殺したら犯罪になるそうだ。不慮の事故で殺してしまった場合でもその殺した者は失格になるそうだ。


『ならいくらリュウにゼロくんを殺せるだけの力があったとしてもそれは使えない。もし事故だとしてもゼロくんを殺したら、あのイムっていう魔族と大喧嘩になりそうじゃない?』


『確かに…』


一応称号にも魔王の伴侶(仮)もあるし、リュウから故意に大会で殺されるということはきっと無いだろう。……無いよね?



『相手が全力を出せない以上、ゼロくんでも戦い方次第では勝てる可能性は全然あるよ』


『そっか…!』


問題のその戦い方も俺の中にいるユグやジール、闇翠の中にいるブロスが助言をくれる。魔力が使えないから3人を使うことはないから助言は貰い放題だ。……ん?あっ!


『ねえブロス、悪魔憑きを使わないでなら、あの能力は魔力無しで使える?』


あの能力とはブロスの傷付けた相手のスキルを使用頻度の高い方から優先的に封印するというやつだ。


『同志よ、やっと気がついたか』


『っていうことは……?』


『使えるぞ』


『よしっ!』


悪魔憑きをしないので、攻撃のさいに毎回使おうとしなければならないが、使えるそうだ。


『それなら…勝てるかもしれない』


勝機が出てきたということでテンションがかなり上がってきた。


『はぁ…少し落ち込んで損した…。ユグも大会でなら勝てるかもしれないって最初に言っててくれたらこんな想いはしなくて済んだのに』


ユグが最初に大会でのルールで縛られた状況なら勝ち目があると言ってくれれば、大会に参加すると言ったことを後悔することもなかった。


『それはゼロくんが最初に試合ならって条件を言わなかったのが悪いんだよ〜』


『あっ』


そういえばお互い魔力無しでとは言ったが、大会ならという条件は言ってなかった。これは完全に俺のミスだ。


『それに今の状況でも負ける確率の方が全然高いのは変わってないんだよ?そこのところしっかり理解してる?』


『…大丈夫。ちゃんとわかってるよ』


あくまで大会ではという条件でのみ勝てる可能性が現れただけで、力の差は何も変わっていないのだ。

今の俺にできることは大会までに少しでもその差を縮めることだ。


『大会ではダーキにかなり頼ることになるからよろしくな』


『大会までに獣化を使っていいって許可が私から出るといいわね』


『あっ!やべっ!!』


そうだった!ダーキに認められるような戦い方ができるまで獣化はさせてもらえないんだった!どうにかここを発つ前には許可をもらわないといけない。




「レベルMAXになった!!」


どうやってダーキに認めてもらおうか考えていたら、シャナがそう叫ぶ声が聞こえてきた。


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