第314話 異変

「遅いわよ!」


「ごめん!すぐに交代するから!」


俺が戻る頃には交代予定時間が数分過ぎていた。

俺は2人に軽く謝ってすぐに交代した。


それから俺が2人のサポートを始めたが、俺1人でも魔法攻撃と物理攻撃を上手く使えば全く問題できた。だが、そんな狩りに変化が起こったのは日付が変わってすぐの出来事だった。



「はぁ……はぁ…」


「はぁ…はぁ…」


シャナとキャリナ2人の動きが目に見えて鈍くなった。シャナは魔法をもうほとんど使っていない。キャリナは瞬きをする回数が異様に多くなった。

少し考えればわかったはずだ。俺やソフィみたいにほぼ無尽蔵の魔力なんてシャナは持っていないこと。今までほとんど使ってなかった魔眼を何度も使ったら負担が大きいこと。

みんなは気付いて居たのか?いや…気付かないわけが無いと思う。


「あっ…」


俺はみんなの意見を聞いたか?ソフィの案だけ聞いて俺だけで考えた。別にそれが悪いことではないと思う。ただ、それは俺にリーダーとしての力があったらの話だ。前世も含めても、エリーラが居るからこの中で1番年上ではない。

そもそも年なんて関係なく、俺はリーダーの経験なんてほとんど無い。いや…対校戦の時はリーダーだったな。でも、それも作戦が予定通りにいったことの方が珍しい。それに、エリーラとのドラゴン魔族との戦い、勇者から精霊達を取り返す時のように大事な時ほど作戦は失敗していた。



「ユグ」


「はいよー」


俺はユグを出して魔力を渡した。そして、魔法の準備をお願いした。


「「転移」」


「ん…」


「え…」


そして、ユグに準備してもらった魔法で、シャナとキャリナの2人を雷結界内にいるソフィとエリーラの近くに転移させた。


「流雷群」


2人のサポートをする時に精霊ジール降臨は解除していたので、詠唱をして精霊魔法を使った。

流雷群とは巨大な雷の球を流星群のように無差別に落とす魔法だ。これは普通に使っても1回で俺のMPを余裕で0にするほど消費する。これで魔物は一旦ほとんど居なくなったので、俺も結界内に戻った。



「シャナとキャリナはこれで終わりにしよう。

ごめん、俺はかなり無理な予定を立ててた。今からゆっくり休んでて」


俺は2人のことを考えてなかった。ただ、効率が良くてやれそうだったから夜の狩りを選んだしまった。


「まだ…やれる」


シャナはそう言って立ち上がった。だけどまだ息は切れてるし、どう見てもやれるとは思えない。


「2人とお兄ちゃんはここで休んでて。とりあえず私とエリーラで狩ってきます。エリーラも大丈夫問題ないですよね?」


「全く問題ないわよ」


そう言うと、2人は結界から外に出た。そしてまだやってきている魔物達に向かっていった。


「ユグ、体力を回復させられる魔法を作れない?」


「作れなくはないけど、ゼロくんの疲労と回復量が割に合わないからやめた方がいいよ?」


ユグに2人を回復させられないか聞いたけど、それは難しいとの答えだった。2人を通常時ほどまで回復させると、俺はぶっ倒れて気絶しまうそうだ。今この状況で俺に余裕がなくなったら結界が消えてしまう。だからそれはできない。



「ゼロス…あと1レベルなの。あと1レベルで2人に追いつけるの。もうこれ以上2人には差をつけられたくないの…私をあそこに行かせて」


シャナは俺の手をぎゅっと掴んでそう言ってきた。

俺はどうしようかとあれこれ考えてしまった。シャナはあと1レベルで進化できるのだろう。こんな魔物達の大軍と5時間も戦ったのなら、もうそれぐらい上がるかもしれない。しかし、それら逆に言うとそれほどまできついということだ。いくら俺達のサポートがあるにしても、このペースは早すぎる。

シャナには心を読まれる。だからどう取り繕っても意味が無い。それを抜きにしても、仲間であるシャナには嘘偽りなくいたい。だから俺は素直に思っていることをシャナには話すことにした。


「だめだ。今のシャナをあそこに行かせるわけには行かない。そんな状態で行ってもすぐに戦えなくなるだけだ。だから今はゆっくり休んで、残り時間戦いきれると本当に判断したらすぐに行っていいから」


「なら今から行ってくる」


シャナはそう言うと、俺の手を離して結界の外に出ようと歩き出した。今度は俺がシャナの腕を掴んで軽く引っ張った。


「わっ…」


軽く引っ張ったことでシャナは倒れそうになった。俺はシャナを倒れないように支えた。


「ほら、ふらふらじゃん。俺とソフィはシャナを置いて先に行こうなんてしないから。シャナはシャナのペースで俺達に追いつけばいいから。そんな焦らなくていいよ」


「……置いていったら許さないから」


シャナはそう言って横になって目を閉じて休み始めた。


「キャリナは…」


「すーすー…」


さっきから無言のキャリナは休んだらもう一度やるかと聞こうとした。しかし、キャリナは疲れ果てていたのか、もう眠っていた。


この夜の狩りの作戦は俺の案にみんな賛成した。だからと言ってみんなの意見を聞かない理由にはならない。みんなをよく引っ張る為にも、これからはみんなの話をもっとちゃんと聞こう。

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