第311話 夜の変化

「エリーラ、少しここを任せてもいい?」


「良いわよ。でも、あまり遠くには行かないで、すぐに戻ってくるのよ」


「分かった」


「キャリナもよろしくな」


「分かりました」


俺は一緒に見張りをしているエリーラとキャリナとそう話すと、1人で夜の深林の中へと入って行った。



「やっぱり、一体も居ないな…」


俺が深林の中へと入った理由はアンデットが一体もやって来なかったからだ。深林の中にはいるかと思ったが、一体も居ない。


「シャァー!!」


「雷縮!」


後ろの木の上から2mほどの蛇の魔物が毒を吐いてきた。俺は俯瞰の目でその様子は見えていたので、その毒を余裕を持って避けた。そして、雷縮を使って蛇の魔物まで飛び上がって、首を剣で斬り落とした。


「…そんなに大きくないのにランクが高いのはこのせいか」


毒が当たった地面がしゅーっと言う音と共に煙を出して溶けて凹んでいた。前に倒した蛇よりもかなり小柄だが、この毒の強さでランクが高いのだろう。


「っ!」


危機高速感知が反応したので、横に移動した。すると、俺がいた場所に衝撃波のようなものが木々を薙ぎ倒しながら通り過ぎた。


「雷撃!」


「キィィ!」


俺に衝撃波を放ってきたのは3mほどのコウモリだった。飛んでいるコウモリにジールとの精霊魔法を当てた。そして、痺れて落ちてきたところを狙って胴体を真っ二つにした。


「シャア!」

「キィヤ!」

「シュッ!」

「ホォ!」


「…雷電トリプルエンチャント」


さっきのコウモリの衝撃波で木々が薙ぎ倒される音を聞いたのか、様々な鳴き声がこっちに近付いてきている。深林の中では、アンデットが居ない代わりに、今までこの辺では見たことがない魔物が増えている。俺は情報収集はもう十分だと判断してエリーラ達の元へ隠密と忍び足を使って魔物達に気が付かれないように戻った。



「そう…」


「…」


俺は戻って見たことの無い魔物が増えていることをエリーラとキャリナに伝えた。


「エンペラーリッチによって集められたアンデットが居なくなったから、夜に活動する魔物達がここを自分達の縄張りにしようと集まったってところかしら?」


「多分そんな感じだと思う」


ただの予想でしかないが、エリーラの言っていることであっていると思う。でも、謎なのは昼間に居た魔物は夜はどこに行ってるんだ?逆に夜にこんなにいる魔物は昼間はどこにいるんだ?



「で、どうするのよ?」


エリーラが言ったどうするとは色んな意味が含まれているだろう。今はここに無色透明で結界を張っているから魔物達にはバレていない。ただ、1度バレて大きな音を出したら、今までのアンデットの時よりも大量の魔物がここに集まるだろう。それはレベル上げをするのにはかなり嬉しい。しかし、アンデットと違って様々な攻撃をしてくる魔物達を夜目のスキルレベルが低い者では相手にするのは大変だろう。



「魔物が集まってきたらソフィとシャナを起こして野営の場所を変えるか、このままここで野営を継続するかを話し合う。ソフィとシャナには悪いけど、魔物が集まらなくても予定よりも1時間早くに起こしてそれを話し合う」


「リーダーさんの意見に了解しましたわ」


「分かりました」


2人ともこの提案に賛成してくれた。



「特に飛び抜けて強い魔物は居なかったのよね?」


「俺が見たところには居なかったよ」


エリーラの質問に俺はそう答えた。昼間行ってるよりも浅い所までしか行っていないが、その場所では飛び抜けて強い魔物とかは居なかった。


「…おい、まさか深林の中に行こうって言うんじゃないよな?」


「え!そ、そうなんですか?」


俺がエリーラにそう言うと、キャリナが驚きながらエリーラに真意を確認した。エリーラも昼間は俺とソフィと同様にシャナとキャリナのサポートであまりレベル上げができていない。だから今のこの魔物が多い夜はレベル上げには絶好の機会だ。


「行こうとも考えたわ。でも、私が何か危険な目にあった時は助けに来れるのはあんたかソフィアだわ。そうなったらここに居る戦力はかなり減るわ。

それに、私はあんたほど隠密も得意じゃないわ。だから帰ってくる時に気付かずに魔物を連れてきそうだし行かないわよ」


「ならよかったよ…」


俺は偵察のためとはいえ1人で深林に入ったから、エリーラも行きたいと言っても止められる立場ではなかった。だから行きたいと言ったらどうしようと内心焦っていた。


「あら?心配してくれたの?」


「…そりゃするだろ」


エリーラは俺にからかうようにそう言ったが、普通に心配する。ただでさえ真っ暗で視界が悪いのに、今まで見たことの無い魔物達が大量に現れるのだ。仮に深林に入るのが俺とソフィの2人だとしても油断していると危ない。


「ふふっ。ありがとう」


それからの見張りで、魔物が近くまでやって来る時はそれなりにあった。その時はキャリナのレベル上げにはならないが、俺とエリーラが魔物に気付かれないうちに始末していた。



「キャリナ、ソフィとシャナを起こしてきて」


「分かりました」


そして、本来起こす予定の1時間前になったので、キャリナにソフィとシャナを起こしてもらいに行った。

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