第304話 キャリナの眼

「それでは、私は里に帰ります」


「え、早くない?もう少しゆっくりしていけば?」


装備を付けてからはお互いのちょっとした世間話などをすると、エミリーさんはそう言い出した。


「いえ、そういうわけにもいきません。女王の私は里でやるべきことが多いのですよ」


「あ、そうなんだ」


そう言われてしまっては何も言い返せない。そして、引き止めてから思ったけど、実際にこんな仮拠点でやることなんてほとんどないしな。


「誰かが次の王になってくれれば話は別になってくるんですけどね」


「あはは…」


「女王様、お見送りしますよ」


エミリーさんの言葉に俺は乾いた笑いしか出なかった。冗談で言ってるのだろうが、俺は王になる気は無い。俺が反応に困っていると、ソフィが女王様を玄関までお見送りしようとした。



「では、エリーラも足を引っ張らずにしっかりやるのですよ」


「分かっております」


「では、またの機会に会いましょう」


そう言うと、エミリーさんは飛んで帰って行った。あんな感じに空を高速移動できたら楽だろうな…。



「はあーー、やっと気が休まるわ」


エミリーさんが帰った途端にエリーラはイスにだらーっと姿勢を悪くして座った。


「ちょっと暴れたいからあんた付き合ってよ」


「いや、俺は今日スキルまでしか使えないから」


「あ、そうだったわね。なら私は外で適当に魔物でも倒してくるわ」


エリーラはそう言うと、外に出ていった。女王と一緒というのは気を使わなくてはいけなく、かなりストレスになっていたのだろうか?エリーラが外に出て数分後には何かがバーンッ!破裂するような音が聞こえたが、多分エリーラがやったんだろうな…。

この日の夜はエリーラが取ってきた魔物の肉を食べてから眠った。そしてついに、待ちに待ったこの日がやって来た。




「キャリナ!模擬戦しよ!」


俺は朝早く起きて居間でキャリナが起きてくるのを待っていた。別に深夜の日付が変わったタイミングでなら好きに暴れられたのだが、1人寂しくそんなことをするよりも早く寝て万全な状態でキャリナと戦った方がいいと判断した。



「まず模擬戦をしようと誘う相手がキャリナなことに1番文句を言いたいですが、とりあえず模擬戦をするなら朝食を食べてからにしてください」


「あ、はい。ごめんなさい」


俺よりも少し遅いくらいから起きて、朝ご飯の準備をしていたソフィに怒られてしまった。こんなやり取り似たようなことは前世でもやった記憶がある。何だか懐かしい気分になってしまった。ソフィも同じだったのか目が合うと優しく微笑んだ。




「よし!キャリナやるぞ!」


「わ、わかりました」


朝ご飯を食べ終えたので、俺は装備を整えて外に出た。この新しい装備達も初めて使うので楽しみだ。

ここには俺とキャリナの他にもソフィ、エリーラ、シャナが揃っている。理由としては、俺に異常がないかの確認とキャリナの眼の力を見るためだ。



「では、両者準備はいいですか?」


「おう」


「はい」


ちなみにこの模擬戦の審判はソフィがしてくれている。


「では、始め!」


「やーーっ!」


「雷電トリプルハーフエンチャント」


ソフィが開始の合図を出すと、キャリナが俺に向かってきた。俺は鞘に入ったままの剣を構えた。


『今はキャリナの力を見るための模擬戦であって、殺し合いとかでも何でも無いから、これでいいよね?』


『問題ないわよ。ただ、未知の魔物相手にこれなら怒ってたわよ』


雷電トリプルハーフエンチャントをした時に少し不安に思ってダーキに話しかけてしまった。なんで舐めプなんかするな!常に全力で戦え!って怒られなくてよかった。



「はっ!やっ!」


キャリナの攻撃を俺は簡単に受け流していく。元々ステータスの数値では勝っていて、さらに追加でエンチャントまでしたのだ。これでキャリナが何をしてきても大抵のことなら問題ない。エンチャントでも身体は思うように動いてくれている。



「はぁ…はぁ…ふぅ」


身体を温めるためか、数分間キャリナと接近戦をした。時々俺もカウンターのように攻撃は仕掛けていたが、全てガードされた。こんなことは今まではできていなかった。しかし、これが眼の力ではないだろう。これができるようになったのは、単純に深林に来てからキャリナが強くなったからだろう。



「……ではいきます」


「ああ」


キャリナはそう言うと一旦取った距離を詰めるために走ってきた。そして、俺まであと5歩といったところで心做しか左目を大きく開いた。


「はっ!」


「ぐっ……!!」


キャリナが5歩あったはずの距離を一気に詰めてきた。それには驚いたが、普通ならそんなキャリナのパンチも受け流せるくらいの余裕はあったはずだ。なのに、俺は剣でガードするので精一杯だった。下手なガードをしたせいで俺は勢いに押されて数メートル後ろに下がってしまった。



「なっ…!」


俺に追撃をかけようと向かってくるキャリナを見ると、黄色いモヤのようなものを纏っていた。あれは俺の雷電エンチャントととても似ている。俺は【攻撃】と【敏捷】が下がった感覚も含めて嫌な予感がした。恐る恐る自分の体を見てみた。すると、さっきまで俺にもあった黄色いモヤは無くなっていた。


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