第299話 刺し違えてでも…

「くっそ……!」


どうにか手の平に突き刺さった槍を抜こうとしているが、槍が長く抜けない。


「私が身体の調整をしている間に守り人が必要となるからやっぱり君は兵にするよ」


もうどうしようもないのか?何か手はないか?と考えている時にほんの少しだが、岩に振動があった。



「あっ…」


「あ……」


岩の隙間からキャリナが恐る恐る様子を窺うように少しだけ顔を出した。そして、俺と目が合った。

キャリナはボロボロの俺の姿を見て大声を出そうとしたが、咄嗟に口を手で押さえて声を出さないようにした。



「あ、もう1匹いたんですね。なら2人仲良く私の兵にしてあげますよ」


キャリナは顔を出した時点でエンペラーリッチには見つかっていた。キャリナはエンペラーリッチと目が合って、蛇に睨まれた蛙のようになっている。でもそれは仕方がないことだ。俺でもこいつの相手をするのに足が竦みそうになるのだから。キャリナとエンペラーリッチでは実力がかけ離れている。俺以上に恐怖を感じているだろう。



「あっ…」


キャリナが近くに居たから、俺はエンペラーリッチを刺し違えてでも倒さなければならないということを再確認した。こいつは俺を殺したら、ソフィ達も戦力アップのために殺すだろう。魔法耐性が高過ぎるこいつをソフィやエリーラでは倒せないだろう。また、物理攻撃が得意なシャナやキャリナでは、まだ進化していないからこいつと戦えるレベルに達してもいない。こいつを殺れるとしたら、それは俺しかいない。



「うがぁぁああ!!!」


俺は手の平の傷口を広げながら無理やり左手の槍を外した。そして、これからやる事のみに集中するために、悪魔化やエンチャントなどの全強化を解除した。



「そんな状態で左手だけ抜け出せて何かできることはあるのか?」


エンペラーリッチは俺の行動を見て無駄だと嘲笑っていた。そんなエンペラーリッチを無視して俺は左腕を上げた。まだ使ったことの無いスキルを使おうとしているのに、自然と使い方を理解することができた。魔族を倒してからもレベルが上がったからこのスキルによる反動が少なくなっていることを願うしかない。最悪死ななければ問題無い。





「神雷!」


そう言うと共に俺は上げた左腕を振り下ろした。それと同時に俺の左腕は消し飛んだ。


俺の左腕が消し飛んだことを合図に、空からゴォーー!という轟音と共に俺を中心に神々しい純白の巨大な雷が落ちた。その雷は巨大なドラゴンゾンビをも軽々と飲み込んだ。雷が落ちている数秒間は深林が昼間以上にに明るくなった。そして、神雷が消えると再び静かで真っ暗な深林へと戻った。






「…キャリナ、誰かが怪我をしてたら、これを使って回復してあげて。…ついでに俺の回復もしてほしい……」


周りの木々などは無傷だが、目の前からエンペラーリッチとドラゴンゾンビは跡形もなく消えていた。エンペラーリッチは神雷が来る前にドラゴンゾンビの下に潜ったのは見えたが、その程度で神雷が防げるわけがなかった。

木々などと同様に無傷のキャリナの前に指輪からエリクサー系の回復薬をあるだけ出して置いた。そこで、俺の意識は落ちて地面に倒れた。





◆◇◆◇◆◇◆


イム視点



「危なかったよ……」


僕はダーリンがトドメを刺されそうになったらすぐに助けに行けるようにと、常にダーリンの戦いを見ていた。ダーリンが左腕を振り下ろす瞬間に僕のあるスキルが反応したから、あのスキルの範囲外に転移で逃げようとした。



「まったく…ダーリンのせいでストックがほぼ全部無くなっちゃったよ」


ダーリンの妹であるソフィアの攻撃でもほとんどストックは減ってなかった。しかし、あの一撃を少し逃げ遅れたせいでストックの大部分が消滅した。



「あんなのがあるなんて聞いてないよ…。ますますダーリンのこと欲しくなっちゃったじゃん!」


ダーリンのステータスは進化してから見えなくなった。だからあんなスキルがあるなんて知りもしなかった。あのスキルをこんな間近で見れてよかった。


「本当はあの魔族も欲しかったけど、ダーリンの経験値になったからいっか!」


僕が密かに立ててる計画にはあの魔族は少し欲しかった。でも別にどうしても必要というわけではない。あったらいいな〜くらいだから別になくても全く問題は無い。



「これからしばらくはストック補充か……」


あんな大技は連続で何度も放つことはできないだろう。でも、あれ1回分くらいは耐えられるくらいにストックを溜めておきたいな。だから少しの間はダーリンに会えないかもな……。



「あ、早く帰らないとリュウに怒られちゃう!」


最後にダーリンの顔だけ見てから帰ろうかとも思ったが、顔を見てしまうと連れ帰るのが我慢できなさそうだ。それに今の僕の状態でソフィア達とは戦いたくはない。だから僕は寄り道をせずにリュウのところへ転移した。



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