第297話 アンデットの正体
「はっ!はっ!」
「あー!」
俺はさっきのアンデットの拳のラッシュ以上の速さで攻撃を仕掛けている。主な攻撃は剣だが、時々魔法も使っている。このアンデットは今のところ無詠唱で魔法は使ってこないし、攻撃もパンチやキックのみだ。だから空中の足場、訳して空場を使って高速移動できる俺に攻撃は当てられない。
「らっ!」
「ぐっ!」
15分近くラッシュを続けて、やっと俺はアンデットの片腕を切断することができた。切断された片腕以外にも身体中に深い傷があるので、片腕もすぐには再生されないだろう。
このまま今のペースで行けば再生スピードよりも、傷を付けるスピードの方が早いから勝てるだろう。だが、油断はしない。いつもこれなら勝てると思った時に油断をして危ない目にあってきた。アンデットがやりそうなことで可能性が高いのは、自分をも巻き込んだ無差別の広範囲の魔法だ。その兆候があった瞬間にジール精霊化の能力で雷になってから距離を取るつもりだ。一旦仕切り直しにはなってしまうが、再生も無限にできる訳では無いし、魔力にも限りはある。また繰り返すことになるだけなら問題は無い。
「くそっ…」
アンデットが舌打ちをしてから腕で頭を覆って動かなくなった。俺は魔力高速感知で様子を伺いながらも攻撃の手を緩めなかった。
それから5分経って腕を1本斬り落とし、また10分経ってもう1本腕を斬ることができた。頭を隠しているということは、頭は落とされたら死なないにしても何か不都合があると言っているようなものだ。もう腕が1本しかなく、頭を全て隠せなくなった。
「っ!?」
頭を落とそうと何度か攻撃を仕掛けている時、急に危機高速感知が反応した。俺はすぐに上空に飛び上がった。
「…随分と痛め付けてくれたね」
「なっ!」
俺は上空で空場が消える前に次の空場に飛び移るのを繰り返していると、アンデットは俺の方を見上げながら不気味に微笑んだ。別に不気味に微笑むだけならよかった…。
「空での戦いが望みかい?よいっしょ!」
アンデットはそう言うと、背に生えた羽で空を飛んだ。アンデットは他にもサソリのような尾も生えていて、肩の裏から生えている腕は蛇のようになっていた。その他にも獣のような足になっていたりと細かな変化は数多くある。
「ここに死体を置いてくれて助かったよ」
「あっ…」
俺はここにグリフォンの魔族とマンティコアの魔族の死体を置いてキャリナの元へ行った。別に置いて行っても支障はないと思っていた…。確かにここに来た時に死体はなかった…。
「死体を…」
「改めて自己紹介といこうか。私はアンデットの王であるエンペラーリッチだよ」
「エンペラーリッチ…!?」
エンペラーリッチはS+ランクの魔物だ。エンペラーリッチも普通のリッチと同様に高い魔法耐性のあって魔法が得意のアンデットだ。ただ、魔法耐性が高い代わりに物理耐性が低いことでも知られている。エンペラーリッチは物理耐性が低いからS+ランクだが、それ以外のスペックはSSランクはあるだろう。
「私はどうにかして物理耐性を高めようとあれこれ方法を探し回っていたんだよ。そして、数年経って私の物理耐性が低いなら高い物理耐性がある死体から身体を乗っ取ればいいって思いついたんだよ」
「………」
「それを思いつくまで苦労したよ。あ、ちなみにこんな風に死体から肉体の一部を奪うのもその苦労の段階で発見したのだよ」
こいつは前から普通のエンペラーリッチでは無い。確かに魔物はランクが上がるほど知能も上がる。しかし、自分の弱点を理解して、更にはそれを克服しようとする魔物は居ないだろう。もしかすると、こいつは自分でも気付いていないだけで、元々魔族だったのかもしれない。
そう考えると、今のこいつは身体を乗っ取って物理耐性を身につけ、元がAランクやSランクの魔物だった魔族も吸収している。このエンペラーリッチは能力的にはSSランクの魔物の魔族ともきっと互角に張り合えるだろう。
「身体を乗っ取った時の唯一の心配点は魔法耐性が下がってしまうことだったけど、私の魔法耐性が下がってはいなくて安心したよ」
もう1つ違和感に気が付いた。こいつはこんな悠長に話せていたか?そして、こんな長話をするようなタイプだったか?姿が変わってから性格も変わったみたいに感じる。
「いやー情けない話でね、今まで身体を操っていたのはあのグールの魔族だったんだよ。なんせ灰になった死体の復元からしたから身体を乗っ取るまで時間がかかったんだよ」
俺の心を読んだかのようなタイミングで気になっていたことを言ってきた。今までもあんなに強かったけど、それもまだまだ全力では無かったってことか?
「今1番悩んでるのは、君を私の体に吸収した方がいいのか、操って兵にした方がいいのかってことなんだよ。どっちも捨て難いんだよ…」
エンペラーリッチは聞いてもいないことまで勝手に話している。本当は今のうちに攻撃した方がいいのだが、隙があるようで隙が無い。今突っ込んでも何をしてくるかも分からないので、簡単に殺られてしまうだろう。
「いや、ごめんね。長々独りで話しちゃって。なんせ誰かと会話したのなんて何十年ぶりだったからさ。ちなみに死体は綺麗に残ってたら兵にして、形が崩れてたら吸収しようかと考えてるよ。それじゃあ、いくよ」
エンペラーリッチはそう言うと腕を横に振った。すると、俺のすぐ真横から数え切れないほどの黒い槍が猛スピードで向かってきた。俺は慌てながらも何とか雷縮で避けることができた。
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