第296話 化け物

「……キャリナはちょっと隠れてて。できればソフィとかと合流してほしいんだけど、下手に動いて魔物に見つかったら大変だからね」


「え……」


俺はそう言いながらキャリナを下ろした。あの危機高速感知の反応から考えると、新たなアンデットはかなり強いだろう。それこそキャリナでは相手にできないくらいに。正直、俺でも相手にできるかは分からない。だが、俺がやらないとソフィやエリーラ達のところへ行ってしまうかしれない。

アンデットが全て消えたかどうかは分からないし、アンデット以外にも魔物はいるからキャリナにはできる限り安全な場所で待機しててほしい。



「……わかりました。私はここで隠れてます…」


「ありがとう」


俺はキャリナに遠回しに言ったが、その内容は足でまといだから隠れてろってことだ。キャリナもその意味を感じ取ったのか、少し俯きながらも了承した。



「さて…」


キャリナも離れて再び1人となった。俺はアンデットが向かっていた方角でもある、俺が最初に戦っていた場所に走って向かった。



「あー…?」


「………」


俺がそこに着いて目に入ってきたのは、あのグールの魔族を2周りほど大きくして、肩の後ろから追加で腕が生やした化け物だった。



「私が生まれ変わって初めて殺すのがお前みたいなガキだとはな…。まあ良い。お前を殺して私の傀儡の第1号にしてやろう」


アンデットはそう言うと、まだ十メートル近くあった俺との距離をほぼ一瞬で詰めてきた。


「らあっ!」


「はあっ!」


そして、アンデットは肩の裏にある手を組んで、俺に振り下ろしてきた。俺は一瞬だけその攻撃を2本の剣で受け止めたが、すぐに受け流してから距離を取った。



「なんだ、少しはやるでは無いか」


「ふぅ…」


こいつがグールの魔族だった時は、パワーではほぼ互角か俺の方が上だった。その力関係がどう変化しているのかを確かめるために、一瞬だけちゃんと受け止めたが、完全に力負けしていた。あのまま受け止めていたら俺は押し潰されていただろう。それ程までに力の差があった。



「っ!?雷縮!!」


急に危機高速感知が反応した俺は雷縮で横に移動した。移動してから俺の元居た場所を見ると、そこには地面から黒い槍のようなものが10本近く生えていた。移動していなかったら今頃俺は串刺しになっていたのか…。



「はっ!」


俺は今の魔法のお返しとして雷龍を放った。雷は火よりは効かないだろうが、【魔防】がどれほどあるのかを知りたかった。アンデットは俺の魔法をガードすることも無く、普通に食らった。



「こんなもんか?」


「まじかよ…」


アンデットは俺の雷龍を食らっても肌が少し焦げるところがあるだけで無傷に近かった。その焦げた肌も一瞬で再生していた。それは前のグール魔族では考えられないことだ。もう前のグール魔族とは全く別の魔物だと思った方が良さそうだ。



「雷縮!はあっ!!」


魔法がダメなら今度は剣で攻撃した。その攻撃もこいつは全く避けることは無かった。肝心の攻撃の効果はほぼ無かった。一応俺の攻撃はこいつに浅くない傷を付けることはできた。しかし、その傷はすぐに再生してしまった。やはり、再生スピードも防御もグール魔族とは比べ物にならない。



「弱点は無しかよ……」


今の攻撃を無防備で受けていたが、それは多分自分の力を試すためとかなんだろう。現に俺の攻撃が効かなかったことにアンデットは満足そうに微笑んでいる。



「そろそろ私も攻撃を始めるぞ」


アンデットはそう言うと、俺の方へ走って近付いてきた。


「らっ!」


そして、4本の腕で俺に殴りかかってきた。一発一発が俺にとっては致命傷になり得る攻撃だった。しかし、俺はその攻撃を当たることなく全てを受け流していた。パワーなどでは負けている俺だが、スピードだけはこのアンデットにも勝っていたのだ。



「ダークボーン」


このままでは埒が明かないと思ったのか、再び地面から黒い槍のようなものを生やしてきた。それを俺は危機高速感知を使って横に避けた。



「はぁ…はぁ……」


拳のラッシュから解放された俺は一息つくことができた。当たったらほぼ負け確定のラッシュを受け流し続けるのは思ったよりも精神的に疲れるようだ。


そして、分かったことはこのままだといつか俺の集中力が切れたタイミングで俺が負けるということだ。今回の相手はシンプルに敏捷以外の全ステータスが俺よりも高い。それだけでは勝ち目はほぼなさそうだが、アンデットは新しい体にまだ慣れていないのか、攻撃の種類は少なく、その攻撃も単調だ。だから勝てない相手では決してない。



「神雷エンチャント、精霊ユグエンチャント、ジール精霊化」


俺はジール精霊化と悪魔化と回復エンチャントを解除して、またあの3人の魔族と戦った時と同じ状態になった。


「よし…」


俺は唯一勝っている敏捷を駆使して、再生が追いつかない程の数の攻撃でアンデットを仕留めるつもりだ。


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