第295話 異変

◆◇◆◇◆◇◆


ソフィア視点



「はぁ…はぁ……くそっ…」


「ねぇー?もう終わり?そろそろ僕からも攻撃していい?」


私の魔法は全くこのイムには効いていなかった。どれだけ大掛かりな魔法で攻撃してもすぐに再生してしまう。



「かはっ……」


「こんなのも避けられないの?僕のダーリンならこの程度は簡単に避けれるよね?」


「…お兄ちゃんはお前のじゃない」


イムは地面に埋めた自分の足を私の元まで伸ばして、私の足元から足を出して私の顎を蹴った。魔法に集中し過ぎていたせいで避けることができなかった。



「君が無駄な時間を過ごしている間に、ダーリンは魔族を全員倒したよ?その影響でアンデットも増えてきたしね」


「…無駄?」


お兄ちゃんが全ての魔族を殺したという情報に喜んだ。しかし、無駄な時間という言葉を聞き逃すことはできなかった。


「だってそうでしょう?実力差のある勝てるわけも無い僕の相手を延々と繰り返してるんだし。これを時間の無駄と言わずになんて言うの?」


「……」


私はそれに言い返すことができなかった。イムと戦っている中でこいつを倒す方法が全く思いつかない。私の取得している全種類の魔法を使ったが、全く効果は無かった。物理攻撃も試したが、意味が無かった。


「僕は君と比べたらとっても強いけど、不死身って訳じゃないからね。なんて言ったって僕はスライムの魔族なんだから」


スライムは魔物の中でも最弱だ。どんなに弱い攻撃でも死んでしまう。全てが弱点みたいな魔物だ。だからこそ、特別何が弱点かも変わらない。そんなスライムがこんな強い魔族になるなんて思いもしなかった。



「ふぅ…」


「おっ!今度は何かな?」


私は溜めていた魔力を全部使って1つの魔法を作って、それでこいつを跡形もなく木っ端微塵にする。それならこいつも再生はできないはずだ。それでやっと私はお兄ちゃんの元へ行ける。お兄ちゃんのために魔力を温存しておきたかったが、そんなことを言っている余裕は無い。



「っ!」


「おっ?」


強烈な悪寒を感じたのはそんな時だった。私とイムは同時に同じ方向を向いた。私はお兄ちゃんとは違い、危機感知は取得していないから嫌な予感がしたとしか言えないが、何か良くない事が起きたのは確かだ。



「あー…これは想定外だな…。あれって今のダーリンに勝てるかな?うーん…ちょっと難しいかな」


私はすぐに元凶だと思ったイムを睨んだが、この反応からしてそうでは無さそうだ。そんなことよりもお兄ちゃんが勝手に負けると思われてることに怒りが湧いた。



「うーん…どうしようかな?まずダーリンに戦ってもらうのは確定として…1人で戦わせる?それとも僕も一緒に戦う?でも、僕が居たら絶対に勝てちゃうしな…」


イムは1人で何かを考えている。私はすぐに全魔力を使った魔法を作るのをやめて、こいつを出し抜いてお兄ちゃんの元へ行くことを考えていた。




「よし!これでいこう!ちょうどあの2人の戦いも終わったみたいだしね」


イムはそう言うと、急に消えた。この隙にお兄ちゃんの元へ行こうとしたが、イムはすぐに帰ってきた。


「ん…」


「……あれ?ソフィ?」


イムは気を失っているエリーラとかなり疲労困憊のシャイナを連れてきた。



「本当はもう1人も連れてきたかったんだけど、ダーリンが大事そうにお姫様抱っこしてるせいで連れて来れなかったよ。でも、あれは役に立たないと思うから別に変わらないよね」


イムは誰に言うわけでもなく、1人でボソッとそう呟いた。


「ダーリンが死にそうになったら僕が助けに行くからここにいる3人はダーリンの邪魔をしに行かないでよ」


イムは岩に座りながらそう言った。今のイムには命令に背いたら本気で殺しにくるという気配がある。

どうにかしてお兄ちゃんの元へ行く方法は無いのか……。





◇◆◇◆◇◆◇


ゼロス視点



「アンデットが……」


さっきの危機高速感知の後にアンデットの動きに変化があった。結界を解除したのに、俺達のことには目もくれずに全員同じ方向に向かって走っているのだ。


「ひっ…!」


「キャリナ?」


急に腕の中にいるキャリナが小さく悲鳴を上げた。


「ゼロスさん…アンデットの言っていることを聞いてください…」


「言ってくること?」


アンデットは「あ…」や「う…」など言うことはあるが、何か意味のある言葉を言うことは無かった。俺はキャリナの言う通りに耳をすましてアンデットの言っていることを聞き取ろうとした。



「やっとだ」

「やっと私にふさわしい体が見つかった」

「でも体は灰になってる」

「でも他の死体を使えば復元可能」

「私の新しい体を灰にした奴は殺す」

「みんな殺す」

「殺す!」



こんなことをアンデットは呟きながら同じ方向に走っているのだ。アンデットが好きそうな体で灰になったといえばグールの魔族しか思い浮かばない。そいつの体を使って何かが目覚めようとしているのだろう。今すぐに阻止をしに行こうとしたが、もう遅かった。



「ひっ…!」


周りにいたアンデットがみんな倒れ、そして解けるように消えたのだ。


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