第277話 紹介

「とりあえず契約を解除するぞ」


「ああ…」


ダーキに同意すると、特に何もしなくても勝手にダーキとの繋がりが無くなったのを感じた。


「これで契約は終了だ」


「そうだね」


あっさりと契約は終わった。ダーキと契約してから1ヶ月程しか経っていないのに、寂しく感じる。



「私の評価が良かったら誰か強い獣を紹介するという話を覚えているか?」


「あ、そういえばそんな話もあったね」


これはダーキと契約する前に言われたセリフだ。すっかり忘れていた。



「ゼロスは私が想定していたよりも活躍してくれた。だから強い獣を紹介するつもりだ。今、ゼロスと契約しているのは王と王の補佐なのだから、最低でも紹介する獣は幻想種ではなければならない」


「幻想種?」


幻想種とは、ダーキの九尾のような幻想でしか居ないとされている種の獣だそうだ。



「そこで問題なのが、幻想種はとても数が少ない上に個性が強いということだ。ある奴は次の獣王になる為の特訓に忙しいし、またある奴はとある珍しい娘に夢中だったりしている」


「あ、もうすぐ獣王って代替わりするの?」


「あと数百年で獣王になるために必要な教育は終わるだろうな」


俺は次の王が決まるまで生きていることはできなそうだな。あれ?でもそういえば、俺の寿命は人間の寿命なのか?うん…これを考えるのはやめよう…。



「あっ…ならユグもそんなに教育されたの?」


そんな数百年も教育されたにしてはユグの精神年齢は低い気がする。もしかして、精霊のように寿命が無いような種族は精神年齢が上がるのはゆっくりなのかな?



「私は教育とかは何もされなかったよ?」


「だから補佐がつくのだ。本来は十分な教育を受けた後に王になる。補佐なんて普通はいない」


どうやらユグは特例のようだ。ユグの父はそんなに適当な奴だったのか?



「話を戻すぞ?だからゼロスと契約しても良いという幻想種は居らんのだ。つまり、私はゼロスに強い獣を紹介するという約束を守れないという事になる。獣王ともなる私が約束を破る訳にはいかない。そこで私は強い幻想種の獣の中でも最強かつ、既にゼロスと契約している者達とも引けを取らない程の位である獣を紹介することにした」


「ありがとう?」


何か紹介するのにとても苦労したのが伺える。それでも紹介できる幻想種を俺のために見つけてくれたみたいだ。


「その獣の特徴は、まず毛並みが美しい。さらに、妖力でサイコキネシスが使える」


「ん?」


その特徴に凄く当てはまる獣を俺は1人知っている。



「さらに詳しく言うと、その獣は九つの尾がある狐だ」


「あはははっ…!」



そこまで言われると、ダーキが何を言いたいのかをちゃんと理解することができた。


「ゼロスはその者と契約してくれるか?」


「もちろんだ!こっちからお願いしたいくらいだ!またよろしくな、ダーキ!」


そしてまた再び俺とダーキで繋がりができたのを感じた。



「はぁ…また契約するなら何でこんな茶番みたいな…ことを…」


俺がダーキに文句を言おうとしたが、途中で言葉に詰まってしまった。何故なら、ダーキの姿が九尾の狐から人型に変わったからだ。

その姿は獣人とあまり変わらない。ただ、巫女のような服から現れている九つの尾が目立つだけだ。

そしてその性別が女だった事に驚いた。獣の時は低い声だったので男だと思っていた…。



「人…人になれたの!?しかも女!?」


「あら?教えておらんかったね。私は…と言うよりも幻想種はどれも人に化ける事くらいはできるわよ」


人に化けたダーキは少しつり目なお姉さん系の顔だった。尾と同じ少し暗い蜜柑色の髪は腰付近まで伸びている。また、巫女姿だから着痩せしているだけかもしれないが、胸は…あまり無いな。



「これでもう遠慮なく言えるわね」


「ん?」


なんか口調も変わっている。もしかしなくてもこれが素なのだろう。今までは仮契約という事もあって素を出していなかったのかな。



「あの勇者達との戦い方は有り得なかったわ!」


「ん?」


「結果として勇者達の中で弱いやつから倒しておったのはまだよいわ。だけど、どの勇者に対してもあれオーバーキル過ぎるわ。もっと出力を抑えても余裕で全員を倒せたわよ。あと、あなたはなぜトドメを刺すというほんのちょっとの手間をサボったのかしら?あのせいでゼロスがどれだけ苦労したと思う?あれが無かったら簡単に勝ててたわよ。それに……」


「え?え…?」


急に勇者達との戦いのダメ出しをマシンガンのように連発し始めた。突然の事に、俺は何も言い出せずに固まってしまった。



「ダーキは戦闘オタクに近い。今はこれまで押さえ込んでいたのが溢れ出したのだろう。次からは今回のようなことは無いと思われる。だから今回だけは付き合ってやってくれ」


ブロスはそう言うと、翠闇の中に戻った。そして、ユグとジールも俺の中に戻った。おい!そう言うならお前達も付き合えよ!

その後はダーキによる今までの戦闘の説教が2時間弱続いた。言いたいことを全て言い終えたダーキは満足そうな顔で翠光の中に入っていった。



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