第278話 ベクア流のやり方
「お兄ちゃん、起きて」
「ん…おはよ…」
「おはよう、寝不足?」
「…寝不足」
俺は朝、ソフィに起こされた。起きた瞬間に寝不足と気付くソフィは普通に凄いと思う。
起こされた俺はソフィと一緒に朝食を食べに向かった。
「じゃあ行くか」
「はい」
朝食を食べて終えて、準備をすると、俺達は練習場に向かった。ベクア達が国に帰るまでは毎日練習場で模擬戦をするということになっている。
「おはよ」
「来たな!早くやるぞ!」
「はいはい…」
俺は練習場に着くと、すぐにベクアとの模擬戦が始まった。ここ最近は練習場に着いたらすぐにベクアと模擬戦をしている。
「それで、キャリナから何か言ってきたか?」
「いや、何も無いな」
「はぁ…」
今日も模擬戦中にベクアはキャリナの事を聞いてきた。ベクアには連れていく条件のことを話している。そして、それをキャリナに伝えてはいけないとも言ってある。
ベクアが俺に到着してすぐに模擬戦を挑んでくるのは、キャリナのことを確認したいのだろう。模擬戦中ならちょっと話してても目立つことは無いし、戦闘音のせいで会話はほとんど聞こえないからな。
「ん!?何か獣化上手くなってないか!」
「そう言ってもらえると嬉しいぜ!」
契約が仮ではなくなったからか分からないが、いつもより獣化がやりやすい。
「参った」
「今回も俺の勝ち」
「ちっ…」
獣化だけという縛りでもベクアには8割以上勝てるようになった。
それからも色んな人と模擬戦をしていたら、今日は終わった。
そして、そんな日々を過ぎていき、ベクア達がいる最後の日がやってきた。
「キャリナは…」
「何も言ってこないぞ」
「ちっ…あいつ…」
ベクアは、最初はキャリナのことを心配していたみたいなのだが、だんだん何も言い出さないキャリナにイライラし始めている。
「とりあえず、冷静になれ」
「くそ…参った…」
キャリナのことを考えて少しイライラしているベクアを倒すのはいつもより簡単だった。
「あー…」
「だから落ち着けって」
ベクアは時間が経つほどにイライラしている。まあ、でもそれはキャリナのことを想っている証拠でもあるのだけどさ。
「キャリナ、模擬戦をするぞ」
「え…?わ、私と…ですか?」
「いいから早くやるぞ」
「は、はいっ!」
普段、ベクア達獣人同士で模擬戦をすることは無い。理由は、獣人同士なら国でもできるから、普段戦えない相手と戦った方がいいからだそうだ。
そんなことを考えているベクアに、急に模擬戦をするぞと言われてキャリナは慌てていた。
「らあ!」
「ぐっ…」
「どうした!受けてばっかりか!」
「うっ…」
模擬戦はベクアが一方的に攻め続けている。普段よくベクアと模擬戦をしている俺から見ても、ベクアはほとんど手は抜いていない。
「そうやって自分から何もしないからお前は心までも弱いままなんだ!何を遠慮してんだ!?」
「っ!?」
「ソフィ…」
「グレーゾーンですね…」
ベクアのセリフは事情を知っている人からすると、何が言いたとかわかってしまう。しかし、事情を知らない周りからはただの模擬戦中の指南でしかない。だからギリギリセーフなのだろう。
「わ、私だって…でも、私だけずる…かはっ…!」
キャリナが何か言っている途中にも関わらず、ベクアは容赦なく、キャリナの腹を殴った。
「けほっ…けほ…」
「そういうのはいいんだよ。俺はお前がどうしたのかを聞いたんだぞ。他のやつなんか今はどうだっていいだろ!」
ベクアは腹を抑えて蹲りながら咳き込んでいるキャリナにそう言った。
「私は…私はふ!?」
「えー……」
何かを決心して言い出そうとしたキャリナの顔面をベクアは殴り付けた。いや…そこは言わせてあげるところじゃないのか?
「それを俺に言ってどうするんだ?言う相手が違うだろ!」
「はぁ…はぁ…」
お前が聞いたんじゃないのか?かなり暴論の気がするが、キャリナ的には何か納得できたのか知らないが、立ち上がった時には迷いが無くなったような表情だった。
「…行きます」
「来い!」
そしてその模擬戦はキャリナがベクアに一矢報いて、腕に攻撃を当てた。だが、模擬戦はベクアの勝利で終わった。
「あ、あの…」
「どうしたの?」
キャリナは模擬戦が終わると、治療をする前に俺とソフィの元までやってきた。大丈夫?ふらふらだよ?そして何か言おうとするのだが、言葉に詰まってしまう。
「キャリナ」
「は、はい…」
「あっち見てみて」
「っ!」
そんなキャリナに目線で怖い顔をしているベクアを知らせた。その怖い表情を見たキャリナはびくっと怯えた。そして少し深呼吸を始めた。
キャリナは小柄ということもあって守ってあげたい感じがするな。ソフィよりも妹って感じがするな。
「ぃっ…」
ソフィに足を踏まれた。考えていることがバレたのか…?そんなスキルあったのか…?
「わ、私はたくさん足を引っ張ってしまうと思います。ですが、雑用でも何でもしますので、私も一緒に連れて行ってください!」
キャリナはそう言いながら頭を深く下げた。
ソフィをチラッと見たが、特に強く反対するということは無さそうだ。
「わかったよ。よろしくね」
「は、はい!」
こうして深林へ行くメンバーにキャリナも加わった。
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