第276話 追加メンバー?

「あの時は………」


俺とソフィの話が終わり、その後は普通の反省会が始まった。反省会とは言っても、話の内容は対校戦の特訓期間中の感想などの言い合いだ。



「ゼロス、ちょっといいか?」


「いいけど、何だ?」


みんなで盛り上がってきたタイミングでベクアに誰にも聞こえないくらいの声で話しかけられた。


「少し来てくれ」


「?…ああ」


よく分からないが、ベクアについて行き、練習場から出た。




「俺が話したいことはキャリナの事だ」


「キャリナの?」


ベクアが俺に話したいことはキャリナの事だそうだ。


「俺とウルザは本当に国に用事がある。だが、キャリナには国での用事は無い。あの時は嘘をついていたんだ」


「あ、そうなんだ」


俺は別にそこが嘘だとしても問題ないと思った。断りにくい話に理由をでっち上げて断るなんてよくあることだろう。



「そこで面倒なのは、本当はキャリナも一緒に深林に行きたがってる事だ」


「え?」


「俺とウルザへの遠慮と、1人でついて行く恐怖があるから素直に言えないんだと思う」


兄だからかよく妹のことが見えている。俺の読心法を持ってしてもそこまでは分からなかった。



「もちろん、他のやつ同様に足を引っ張っちゃうとかの気持ちもあるだろうが、そんなんは後で強くなってから世話になった分を返せばいい」


確かにキャリナの実力はシャナよりも下だろう。だから深林に行けば最初は苦労するだろう。



「俺の予想だと、キャリナには何らかの[眼]のスキルがあると思うんだ。それはまだ目覚めてないのか、目覚めているのに使い方が分からないのかの2択だと思う。

それと、シャイナにも[眼]のスキルはあるだろう?それを見て学んで、使い方を覚えてほしいとも思っている」


確かにこの世界では何人もの人を見たが、オッドアイはキャリナ以外に見た事がない。何らかの力が宿っていると言われても不思議ではない。



「それにキャリナの実力だと、もう時期獣とも契約できるだろう」


「なら国に居ないとダメじゃね?」


「そんなことは無い。俺達の契約方法はある程度の実力を備えたら獣の方から会いに来る。それを受け入れたら契約完了。断ったら次にまた違う獣が来るまで待つという感じだ」


なんと、獣人には獣の方から会いに来て契約するみたいだ。それを断ることもできるそうだが、次に再び違う獣が来てくれるとも限らないそうだ。だから選り好みして断ったが、次に来てくれることはなく、誰とも契約できなかったなんてこともあるみたいだ。



「そういえば、ベクアは何で獣をそのまま出さないんだ?」


「それは獣人は親和性が高いからか、獣と同じ姿になれる代わりに出すことはできないんだ」


話の流れで気になっていたことを聞いてみた。ベクアは俺と勇者を見るまで獣は出せるようなものでは無いと思っていたそうだ。獣人には獣をそのまま出して戦うことはできないみたいだ。




「キャリナは眼のことで避けられて続けたから、少しでも避けられないようにする為にあんまり自己主張をしない。だから自分からついて行きたいとも言い出せない。だが、そんなキャリナが自己主張をし始めて、獣人らしさが現れたら化けるだろうな。その時は今よりも遥かに強くなるだろう。もちろん、俺には及ばないがな」


ベクアはキャリナが強くなると予想しているみたいだ。今の俺には、おどおどしたキャリナがベクアの言うようほどに強くなることは想像できない。



「はぁ…まったく…ベクアはシスコンだったんだな。気付かなかったぞ」


「お前にだけには絶対に言われたくねぇーよ!」


俺が思っていたよりもベクアは妹大好きのシスコンさんだった。珍しいと思っていたシスコンも結構身近にいるものなんだな。



「分かった。連れて行けるかソフィにも相談してみるよ」


「ありがとな」


そして俺達は練習場に戻った。その後は特に何も無くのんびりと話し合ってから解散した。







「私としては賛成と反対の半々です」


これはソフィにベクアから聞いたキャリナのことを言った時に出た言葉だ。俺的には賛成の意見は無いと思っていた。だから半々と言われて驚いた。俺がどうソフィに説得しようか考えていたのが無駄になった。



「本当に化けて強くなるのなら連れて行きたいですね。しかし、自分からついてくるのではなく、誰かから言われたからついてきたっというのは、そのうちに周りとの意識の違いが出てくるでしょう」


「………」


また驚いた。ソフィがそこまで深く考えているとは思わなかった。


「何ですかその顔は…まさか私が本当にお兄ちゃんと夜2人っきりになりたいためだけに、他にも人を連れて行くとでも思ってましたか?」


「そ、そそ、そんなことは無いよ?」


「はぁ…」


ソフィは俺が目線を逸らしてどもりながら返答したのを見てため息を吐いた。



「いずれは、リュウとイムという魔族とは私とお兄ちゃんで戦うでしょう。その時にその2人の仲間の魔族の相手は誰がしますか?私とお兄ちゃんが他の魔族達も同時に相手にするというのは現実的ではありません。また、私はお兄ちゃんにそこまで苦労を強いたくはありません。

なので、他の魔族は他の方に任せたいです。しかし、現時点で私達はリュウとイムに集中できるほど安心して任せられる実力の方はいません。だから、今回は一緒に深林に向かって、他の魔族を任せられるほどに強くなってほしいのです」


「お、おう…」


まさかソフィがそこまで考えているとは思わなかった…。今日だけでソフィに何度驚かされるんだ…。



「キャリナが自分から深林に一緒に行きたいという、これが条件です。これができれば連れて行きましょう。ただし、この条件はベクアにも言ってはダメですよ」


「…分かったよ」


ソフィの言い分も分からなくはないし、この条件に納得した。キャリナが一緒に来るかはキャリナ次第となった。






「あれから2日か…」


条件を決めてから2日経ったが、キャリナが行きたいと言うことはまだなかった。ベクア達が国に帰るのは今から1週間後だ。それまでに自分から言わなければならない。

ちなみに、去年にやったような対校戦のパーティーは今年は行われない。理由は、勇者達が遅れたせいで参加者の中で、予定が空いてない者がいること。さらに、聖女の発言の正否を判定することに忙しいからというのも理由にあるそうだ。




「ゼロス」


「ん?」


寝ようとした時に、急にユグ、ジール、ブロスそして、ダーキが出てきた。


「獣達を解放してから今日で3日経った。問題なく解放できているようだ。だからもう私が居る理由もない」


「あ…」


そうだった。ダーキとは勇者なら獣達を解放するまでの契約だった。俺の中でダーキが居ることが当たり前になって忘れていた。


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