第267話 仕留めにいく

「さて…どうするかな?」


俺が思う厄介度は、女勇者=聖女>A>Bの順だ。

あの勇者の女には、あの時間停止に触れたら強制解除以外のデメリットがなければ勝ち目は無い。永遠に攻撃を避けられる。

そして聖女。このバフとデバフがだるい。これがなかったらもうAとBは退場している。ただ、何故かずっと後ろにいるだけで攻撃してくる様子がない。それと、こいつのせいでソフィの動きまで封じられている。だから女勇者と聖女は同率1位でかなり厄介だ。

Aは1対1で戦ったら負けないが、この状況で魔法を使えなくさせられたのが少し痛い。下手に魔法を使いまくると、スキルを大量に与えてしまう。対象から何個までスキルをコピーできるかは知らないから警戒はしないといけない。

Bは放置でいいだろう。例え未来が見えようと、戦闘に入れなかったら何もすることは出来ない。こいつもA同様1対1なら負けないから後回しでいいな。



「よし…もういいかな」


「あ?」


もうこれ以上勇者達の情報は出ないだろう。出たとしてもあまり有益な情報ではない気がする。情報収集の時間は終わりだ。



「神雷ハーフエンチャント、回復トリプルエンチャント」


デバフでステータスが下がっているので、神雷は普通のエンチャントもできただろう。しかし、それだと魔力が持たない。ユグ達に魔力を渡しているせいで今の魔力は無限ではない。制限時間は1分ちょっとだろう。それまでに4人全員を仕留める。


「しっ!」


俺はまず、女と聖女がいる場所に移動した。そこで2人を斬ろうとしたが、いつの間にか女が居なくなった。まあ、聖女だけでも消せればいいだろう。


「シールド!」


聖魔法で盾を作ったが、そんなもの魔力斬りで消え去った。しかし、魔法を斬ったせいで、首狙いだったのが少しズレて腹を斬った。



「美しい…」


聖女はそう言いながら倒れた。それと同時にバフとデバフが無くなった。



「次は…」


俺は今度はAに向かっていった。こいつは高速反射があるからか知らないが、俺に人差し指を振って挑発していた。


「2人目」


「がはっ…」


俺は前世からずっと高速反射を使い続けていたようなものだ。それだからこそ使いこなせるが、急に取得したAが使いこなせる訳が無い。反射速度が上がるが、その反射速度を全く活かせていない。それにバフとデバフが解除されたからステータス差はかなりある。俺はAの首を落とした。

その時に『ピコーン!』と聞こえたが無視だ。そんなことを気にしている余裕はない。



「3人目」


「がっ…」


次に斬ったのはBだ。こいつは1人で逃げていた。未来でこうなるのを見えたようだ。だが、追い付いてAと同様に首を斬った。女を仕留められそうなところを邪魔されたら面倒だから先に始末した。



「最後は…」


後は女勇者だけだ。地味にBの行動がウザかった。Bのせいで女から離れてしまった。これで15秒程失った。でも、残りは30秒ほどある。



「はっ!」


俺は急いで女の元へ行き、剣を振った。しかし、その剣は空ぶった。


「どこいった…!」


女の厄介なところは消える度に探さなければいけないところだ。


「いた…」


俯瞰の目の範囲の端っこで走って逃げている女を見つけた。時間停止があるなら普通は逃げる必要は無い。時間停止にはクールタイムがあるようだ。



「よしっ!」


この距離なら雷縮の方が早いだろう。これであの女を倒せば終わりだ。そして雷縮をしようとした時に、女とは逆方向の俯瞰の目の範囲の端っこに聖女が見えた。



「は!?」


俺は急いで雷縮を中止にして聖女を見てみた。すると、魔力高速感知で聖魔法を使っているのがわかった。こいつはバフとデバフを自分が回復するためにわざと解除したのか!だが、俺は腹を半分程は斬ったはずだ。そこからでも聖魔法なら回復できてしまうのか!?俺は弱っている聖女とクールタイムであろう女勇者のどちらを倒すかで迷ってしまった。それが間違いだった。



「雷縮」


俺は聖女の方に雷縮で移動した。時間停止にクールタイムが必要があるから女は無敵ではないことがわかった。なら、ソフィとベクア達を参戦させられるように聖女を倒すべきだ。



「ホーリーインパクト…」


聖女が雷縮で移動してきた俺に向かって聖魔法で攻撃しようとしてきた。俺はその魔法を斬ろうと構えてしまった。危機高速感知が反応していなかったのに。


「は?」


ホーリーインパクトは地面に向けて放たれた。単純にうつ伏せで寝転がっていたせいで外したのかと思った。しかし、そうではなかった。



「そういう事か!」


聖女は地面を狙ったのだ。俺から離れるために。



「ホーリーインパクト」


「同じ作戦を…」


急いで近付くと、また同じ魔法を使ってきた。今度は騙されないと思っていたら、危機高速感知が反応した。俺は少し慌てて聖魔法を斬った。



「今です」


「やっ!」


「こふっ」


聖女が合図をすると、女勇者に俺の顔面が蹴られた。無理やり聖魔法を斬ったせいで、体勢が悪かった。だから2、3歩下がってしまった。とはいえ、神雷ハーフエンチャントがあったのでダメージは全くない。



「これで時間切れですね」


「くそっ…」


しかし、もう魔力が無くなってしまった。エンチャントも全て強制解除された。聖女は魔力の問題で時間の余裕が無いことに気が付いていたのか。

こんなことになるならもっと全力でジールに魔力を渡していればよかった。そうは言ってもジールも無限に魔力を蓄えられる訳では無いからこれが限界だろう。今回2人を仕留め損なったのは、俺の判断ミスだ。あの時に全く迷わなかったら多分聖女は倒せていた。


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